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50歳のリスキリング - ユカとカズの往復書簡(4)現場感覚とデジタル思考の橋渡し

2026年01月20日

◇はじめに

 この連載は、生命保険会社のシステム部門に長年勤めてきた先輩・カズさんと、同じグループ会社のシステム関連会社で会計・総務を担当してきた後輩・ユカさんとの往復書簡のかたちで話が進んでいきます。

 ユカさんは50歳を目前に、「このまま同じ仕事を続けていてよいのか」という不安を抱え、思い切ってシステム開発部門へ異動しました。若い頃は将来のキャリアを考える余裕もなく、一所懸命に与えられた日々の業務に向き合ってきた彼女にとって、これは大きな挑戦でした。

 カズさんは、20年前に大阪で一緒に働いていた時からユカさんの将来を気にかけていました。ユカさんが初めて「学び直し」に挑む姿を、先輩として応援しつつ、時に具体的な助言を送り続けました。

 全10回の手紙で、50歳前後でキャリアを転換しようとする人が直面する悩みや葛藤、そして小さな成功や発見を紹介していきます。

◇現場感覚とデジタル思考の橋渡し――ユカさんからの手紙、カズさんの返事

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【ユカさんの手紙】

拝啓 カズさんへ。

 最近、ようやく少しずつ仕事の輪郭が見えてきました。私が参画しているデジタル企画部門は人手が足りず、思っていた以上に実務を任されています。任されたのは「デジタル人材育成教材の企画・検討」という仕事で、教育企業やプラットフォーマーと協業しながらお客様を増やす仕組みをつくる取り組みです。

 正直に言えば、どれも初めてのことばかりです。教材の企画などしたことがなく、まずは自分自身がデジタルを学ばなければと参考書を開きますが、頭に入ってきません。専門用語は辞書を引いても一度では理解できず、応用の仕方もわからない。ノートにまとめ直してみたり、動画教材を見たりと試行錯誤を続けていますが、学びが断片的で全体像をつかめないままです。

 一方で、教育企業やプラットフォーマーとの打ち合わせに同席する機会も増えました。彼らの話す言葉は高度でスピード感もあり、ついていくだけで精一杯です。「自分が足を引っ張っているのでは」と不安になり、会議後は反省会をしています。

 そんな中で気づいたことがあります。彼らは最新の技術や手法を語りますが、実際の現場で社員がどう受け止めるか、どのように浸透するかまでは深く踏み込んでいません。私は長年、会計や総務の現場で社員の反応や戸惑いを見てきました。その経験を思い返すと「現場ではこう感じるはずだ」と想像できる部分があり、会議で勇気を出して発言したら意外にも好意的に受け止められました。

 もちろんまだ知識は足りませんし、教材づくりも形になっていません。けれど、自分の経験が無意味ではないと気づけたことは救いです。

 カズさん、私はどうやってデジタルの知識を身につけ、現場感覚とつなげていけばいいのでしょうか。

                                敬具

                               ーユカ

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【カズさんの返事】

ユカさんへ。

 ここまで任されているのは、それだけ期待されている証拠です。最初から全体像を理解できる人はいません。むしろ断片的に学びながら、自分なりに結びつけていく過程がリスキリングの本質です。焦る必要はありません。

 教育企業やプラットフォーマーの人々は確かに高度な知識を持っています。しかし、彼らが見落としがちなのは「実際に社員がどう学ぶか」「現場でどう使うか」です。そこに君の強みがあります。会計や総務の経験から、社員が何に戸惑い、どこでやる気をなくすかを肌で知っている。その視点は何より貴重です。

 デジタルの知識を身につけるには、広く浅くを繰り返すことが大切です。最初から完璧を目指すのではなく、まずは全体をなぞり、必要に応じて深掘りする。会議で出てきた言葉を調べて理解するという行動を続ければ、次第に点と点が線になります。

 そして、自分の経験と照らし合わせることで知識は定着します。「現場ではこうだろう」と考えることは、単なる勉強以上の意味を持ちます。それは君にしかできない学び方です。

 ユカさん、これからも不安は尽きないでしょう。しかし、不安を抱えながら試行錯誤する姿勢こそがリスキリングの真価です。その歩みを止めずに続けてください。必ず力になります。

                                敬具

                               ーカズ

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【結 び】

 リスキリングにおいて、知識は最初から体系的に身につくものではありません。断片的な学びを積み重ね、経験と結びつけることで初めて意味を持ちます。学んだ知識が現場で使われ、違和感や失敗を経て修正される。その往復の中で、知識は「スキル」へと変わっていきます。

 デジタル分野の専門家が見落としがちな「現場の感覚」は、長年の業務経験を持つ人だからこそ理解できます。業務の勘所や暗黙知、関係者の心理や制約条件は、教科書やマニュアルだけではつかめません。リスキリングは単なる知識の獲得ではなく、過去の経験を新しい仕事に活かす試みであり、経験者だからこそ担える価値創出のプロセスだと私は思います。

(住友生命保険相互会社 エグゼクティブ・フェロー デジタル共創オフィサーデジタル&データ本部 事務局長)

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