| inswatch新着記事 | 一覧はこちら |
|---|
森を見る視点(30)収入の不安定さが生んだ、プルデンシャル生命における金銭搾取事案の構造的要因
|
2026年01月27日
【ニュース】
プルデンシャル生命の営業社員(元社員含む)による大規模な金銭搾取事案が発覚し、業界全体が揺れた。事件の概要は報道に譲るが、同社の会見は世間から更なる厳しい指摘を受ける結果となり、「起こるべくして起こったのではないか」という疑念を拭いきれない。非常に残念である。 この度の不祥事の原因について大きいのは「会社の管理体制などガバナンスの欠落」と「極端な数字主義」であるが、もう一つの原因として「歩合給を中心とした生命保険会社に所属する営業職員の給与体系」が根本にある。 この記事では、この給与体系の問題について述べていく。 ◇収入の不安定さの構造的要因と保険代理店との違い 保険会社に所属する生命保険募集人は、2年程度の期間はある程度の基本給が保証されているが、保証期間を過ぎると歩合の比率が高くなる。ここまではよく知られている内容である。しかしその後、募集人の給与を脅かす要因は「契約が取れないこと」以外にもある。 (1)他者契約に連動する手数料の「戻入(引き戻し)」リスク ~自身の過失でない減額・解約であっても新契約手数料が消滅 契約時期の前後半年などの一定期間内に、同じ契約者・被保険者などの別の契約の一部減額や解約があると、新契約の手数料が100%引き戻しとなる。この別の契約が、全く異なる募集人の契約であってもこのルールは適用となる(一部の保険会社では代理店手数料でも同様のルールがあるが、多くの保険会社では取扱代理店に戻入請求するのが一般的)。 (2)単月の挙績に左右される「最低賃金」 ~過去の累計成績ではなく「今月」の数字が生活を直結して脅かす 普段は成績優秀な人でも、単月で既定の契約件数をクリアできないと「最低賃金」となる。 (3)収入減少でも社会保険料は高いまま ~手取りが「マイナス」になる事態も 成績の低迷や顧客都合の早期解約などで単月の給与が極端に下がった時でも、社会保険料は高いままなのでもっと手取りが減り、精神的・経済的に追い詰められる要因となる(マイナス給与となった人が給料日に会社にお金を支払うといった姿も…)。 つまり保険代理店と比べても、遥かに収入が不安定なのである。 ◇不安定な給与体系が不正への動機と正当化を生む 顧客都合の早期解約で落ち込む暇もなく予定外に給与が下がるなどで常に収入が不安定となった時、普段優秀な人でも悪しきに流れる環境ができあがる。 優秀で神格化されている人ほど、そうなりやすく、また「生活のために仕方なかった」という心理的な防衛本能が、「悪人ではないはずの人」も悪しきに流れる結果を生む。人は誰しもそれほど強くはないからである。 ◇四半世紀、放置されてきた給与体系 筆者は25年以上前から営業職員の給与体系への問題提起を主張してきた立場にある。 保険会社がガバナンスを強化したり、コンプライアンス体制の構築を図ることで、こうした事案が起きないよう管理体制を整えることももちろん大切であるが、収入の安定性が確保されない限り、ガバナンスの強化は対症療法に過ぎず、根本の解決には至らない。 お客様のために真面目に働く人達が支えているわが業界において、頑張ったけれど夢破れ失意に落ちてこの業界を去っていく人の姿や、善人だったはずの人が変わっていくのを見たくもないし、そういう業界であって欲しくない。 金融商品である保険商品を取り扱うわが業界が、昔ながらのこの給与体系のままでいいのか、一部の成功者を生むための極端な歩合給制度ではなく、労働法に基づく本来の給与の在り方、つまり生活の安定が保障された仕組みへと転換すべき時期にきているのではないか。業界および関係省庁へもあらためて問いたいと思う。 (保険ジャーナリスト・(有)インスウオッチ発行人) |
