ゲストさん   
 
【inswatch記事カテゴリ】
inswatch新着記事 一覧はこちら

特別寄稿:保険代理店×AI ~AI実装例から考える、目指すべき最初の一歩と本質

2026年07月21日
【DX・AI】

ChatGPTやGemini、Claudeなど。今や生成AIは我々の生活の一部になりつつあるが、保険業・経営を含む保険代理業に活用できている方は、まだ少数派ではないだろうか。

7月11日に開催された第27回
RINGの会 オープンセミナーにて、シリーズ生成AIのセッションに登壇させていただく名誉をいただいた。シリーズ3年目の今回は生成AIの実装というテーマであり、可能性やビジョンではなく、すでに稼働している実例の紹介を中心にお話をさせていただいた。本稿ではセッションの流れに沿って、ポイントを振り返りたい。

セッションモデレーターは、RINGの会
副会長、株式会社dii 代表取締役の永井 伸一郎氏。

登壇者はベルフェイス株式会社 代表取締役
中島一明氏と私の2名。セッションは以下の4部構成で進められた。


  1. データ入力のオートメーション (CRM x AI)

  2. データ活用のオートメーション (SFA x AI)

  3. コンプライアンス管理の強化 (CPM x AI)

  4. AIが完全実装された保険代理店の世界

なお私はCRMやSFAを開発・提供する立場、中島氏はCRMやSFAへのデータ入力ソリューションを開発・提供する立場からお話をさせていただいた。

データ入力のオートメーション
(CRM x AI)

中島氏によるCRM導入企業の課題に関する解説からスタートした。CRMを導入してはみたものの、なかなかデータが蓄積されない。データ入力を徹底しようとしても、従業員はデータ入力を徹底したところで給与が上がるわけでもない。だから進まない。その壁を乗り越えて一人ひとりに入力を徹底できても、その入力は「主観と記憶」であり、客観性や網羅性を担保することが困難であると。読者諸氏にも思い当たる節はあるのではないだろうか。

中島氏はこの課題解決に、AIを活用すべきだと強調した。例えばベルフェイスのbellsalesAIを活用すれば、スマホでボタンを押すだけで、顧客面談の音声データを自動で記録、自動でCRMへの入力を完了できる。

「録音したデータを文字起こししてシステムに保管するのは、すでに実現できている」といった保険代理店は、実は少なくないかもしれない。少し伺いたい。そのデータとは、テキストファイルのことだろうか?だとするならば、そのデータは、CRMに適切に蓄積されているとは言いにくい。家族全員分の洗濯物をたたむことなく、リビングのソファにドーンと放り投げたような状態に近い。(我が家の状態がバレるようでお恥ずかしい)

ご存知のようにCRMには、多様なデータの入力項目がある。例えば、お客様の氏名を入力する項目、生年月日を入力する項目、住所を入力する項目だって別れているはずだ。文字起こしのテキストデータの中で、どの発言内容はどの項目に記録すべきものなのか、分類されるべきなのである。bellfaceAIはただ音声データをテキストファイルとして保存するのではなく、CRMのデータ構造に合わせたデータ入力までの自動化を実現する。洗濯物で例えるならば、家族ごとの分類、シャツ、下着、靴下、どの収納のどの位置に仕舞うかまでを、自動でやってのけてくれるのである。(我が家の洗濯物もちゃんと収納してます)

CRMへのデータ入力に”AIを実装する”ことにより得られる効果・成果、そしてAI活用において目指すべき最初の一歩がわかりやすく紹介された最初のパートであった。

データ活用のオートメーション
(SFA x AI)

このパートは私が解説を務めさせていただいた。まず最初にお伝えしたのが、CRM・SFAの変化だ。AI時代に突入し、今やCRM・SFAは、AIプラットフォーム、”AIに働いてもらうための基盤”に進化している。CRM・SFAは、元々は人間が利用する前提でデザインされたソフトウェアであった。中島氏が解説したデータ入力はもちろん、蓄積されたデータを分析するのも人間、ワークフローに従って業務を担うのも人間。しかしAIの進化によって、データ入力もデータ分析も、業務の実行すらもAIが担うようになっている。

ちなみにこの、業務を自律的に実行するAIが、生成AIの次に登場したAIエージェントと呼ばれるAIである。2025年がAIエージェント元年と言われており、2026年は本セッションのテーマ通り、実装の年と言われている。

そして実装の実例として紹介したのが、三井住友カード株式会社の法人営業で今年の1月から実運用が開始されたAIバディである。AIバディは、トップ営業が実際に行う提案準備業務を再現するAIであり、CRM・SFAの取引先画面からボタンをクリックするだけで起動する。

なお、bellsalesAIと同様だが、データ入力にせよ、データ活用にせよ、いかに簡単にAIを活用できるかは、ユーザーエクスペリエンスの観点で極めて重要であり、改めて後述する。

このAIバディの成果は目覚ましく、45%の提案準備時間の削減と、若手従業員の提案の質向上が認められ、次期中期経営計画においてはセールスイネーブルメント(営業トレーニング)へのAI活用が正式に盛り込まれる見通しとのこと。

さて、セッション聴講者や本稿読者諸氏の興味は、「どうやって経営にも認められる成果を出すことができたのか?」ではないだろうか。その答えは「地道なデータ蓄積が成功の土台」ということであった。そう、AIそのものではないのだ。独自のデータがしっかりとCRM・SFAに蓄積されていたからこそ、AIバディは単なる一般論ではなく、価値ある提案準備をユーザーに提供することができたというわけだ。この点について三井住友カードは「AIツールそのものはコモディティ化する」とまで発言しており、今後の展開としては更なるデータの蓄積、具体的には暗黙知の言語化を目指すとしている点を紹介した。図らずも、中島氏が解説したデータ入力の重要性が、AI実装を実現した企業によって改めて示された形となった。

★三井住友カードの実装事例紹介動画はこちらからご覧いただけます (動画の12:15あたりから)

コンプライアンス管理の強化
(CPM x AI)

CPMはコンプライアンスマネジメントの略で、永井氏の造語であるが、実はこのCPMに該当する領域は、AIが特に成果を発揮しやすい分野であると筆者は考えている。代理店品質評価制度に則り、保険代理店経営者各位は、態勢整備や証跡保管、PDCAの仕組みづくりに注力をされているのではないだろうか。筆者が問いたいのは「その仕組みをどれだけ実際に運用できているか?」である。例えば、システムに保存された証跡の妥当性や正確性、どれくらいの頻度で、どれくらいの件数をチェックできるのだろうか。

私がこのパートで紹介したのは、AIによる24時間365日のデータ自動監視である。bellsalesAIのようなソリューションから次々に保存されるデータを、AIエージェントが全件監視する。面談時の音声から判断される顧客の意向と、最終的に契約された保険商品の性格が合致しないケースがあれば、AIエージェントはアラートを挙げる。人間は挙げられたアラートにフォーカスして、疑義のある商談や契約について、担当募集人に確認をすれば良いのである。

”いかに簡単にAIを活用できるか”の重要性について先述したが、このAIはボタンを押す必要すらなく、ずーっと働き続けてくれる。コンプライアンス・ガバナンスの強化により、行わなければならない業務は増えるわけだが、24時間365日、指示不要で働き続けることができるといったAIの強みを活用することで「業務の増加
= 人の仕事の増加」を避けることができるのだ。大事なのは逆説だ。AIを活用できないということは、今後もコンプライアンス・ガバナンスによる負荷を、人で受け続けなければならないということだ。果たしてそれは現実的な選択なのだろうか。検討してみていただきたい。

★24時間365日の監査AIエージェントの紹介動画はこちらからご覧いただけます (動画の5:00あたりから)

AIが完全実装された保険代理店の世界

ここまでのポイントを振り返りながら、永井氏からAIが完全実装された保険代理店の世界が提示された。

AIによる見込み客の自律的な開拓から始まって、コンテンツ作成やアポの自動取得などもAIが行う。アポが取れた案件に対しては類似の成功事例から情報を取り出し、訪問前にはAIで商談ロープレを行なって練習する。そして人による面談があり、リアルタイムでAIのアドバイスを受けながら進行、面談内容は自動的に記録されて、ただのテキストデータではなく、構造化された形でCRMに収納され、24時間365日AIによってモニタリングされる。お礼メールや営業日報が自動作成が行われ、商談は分析・スコア化され、商談フェーズの一次判断もAIが行う。

あらゆるフェーズでAIが活躍する世界観を想像できるが、永井氏の質問は「本当にここまで実装できるのか?」という問い。そこで自らも経営者である中島氏は答えた。「全体像を一見すると、自分でもここまではできていないように感じたが、一つひとつを確認したら、8割くらいはすでに実現できていた」のだと言う。隣で聞いていて素晴らしいと感じたのは、”AIを活用するぞ!”と意気込んだわけではなく、”自然とAIが活用される形になっていった”という点。人でしかなしえないこと、人にしか創出しえない価値についても中島氏は言及された。それを最大化することを目指した結果でここまで自然にAI実装が進んだのであれば、それは一つの理想系と言えるのではないだろうか。

筆者は保険以外の業界関係者からも「まだまだAIには負けません!人にしかできないことがあります!」といったハツラツとしたコメントを受けることがある。皮肉ではなく、その心意気や良し。人にしかできないことがある。間違いない。とは言え、AIと勝負する必要はない、そう考えている。速さで自動車と競争する人間はいないし、人間より非力なパワーショベルなんてないでしょう。AIも同じ、人間より賢いからこそ価値のあるAI。一緒に働いて、大いに活躍してもらおうではありませんか。

ちなみにAIは、まだまだ、ますます、賢くなる。できることも増える。社会は変わるでしょう。一人ひとりの生活が変わるでしょう。ビジネスの在り方も、コンプライアンスも変わるでしょう。「では保険は、保険代理店はどう変わるのか?」とかく我々は、未来予測をしたがる生き物である。第27回
RINGの会 オープンセミナーのテーマは”本質”であった。本質を問うならば、何が変わるかではなく、何が変わらないかを問うのはいかがか?

ちなみに弊社セールスフォースには、1999年の創業以来変わらず、最も大切にしている価値がある。信頼である。成長もイノベーションも、信頼より優先されることはない。どれだけAIが進化し、環境が変わろうとも、信頼が最優先であり続けることは、変わらないのである。

最後にこの場を借りて、RINGの会 オープンセミナー関係者の皆様には格別の御礼を申し上げたい。1,700人以上が参加する大規模イベントを、保険代理店の経営者の皆さまが手弁当で企画・準備・運営をこなす様は圧巻であり感動でした。登壇者としてご縁を頂戴できましたことは私の財産です。本当にありがとうございました。

 ((株)セールスフォース・ジャパン インダストリアドバイザー第一部 部長)

Copyright© 有限会社インスウオッチ,All rights reserved.