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アクチュアリーによる保険会社の経営からの視点(5)立場から見た定期型と終身型の選択

2026年09月22日
【プロの視点】

 世の中には数多くの生命保険商品がありますが、10年間などの一定期間に限って保障する定期型と、加入者が死ぬまで保障される終身型に分かれるのは、保険業界関係者であれば皆知っています。それでは、お客様、募集者、生命保険会社の立場から見た定期型と終身型の違いは何でしょうか?それぞれの立場から見てみたいと思います。なお、法人契約については節税目的のケースも多く、話が複雑になるためここでは割愛し、保障性商品の個人契約に限定して話をすすめます。

【お客様の立場】

 死亡保険の定期型、つまり定期保険は、生計維持者が若くして亡くなったときの残された遺族に対する生活保障が加入目的の大部分を占めます。一方、死亡保険の終身型、つまり終身保険は、葬儀費用や相続対策が加入目的の大部分となります。ともすると、戦後から生命保険業界で主力商品であった定期付終身保険は批判に晒されがちですが、私は非常に理にかなった商品だと思っています。

 次に医療保険やがん保険などの第三分野商品の場合、病気に罹患した際の

経済的保障が唯一の加入目的です。若いお客様からすると、病気になるのは

ずっと将来の出来事と捉えがちですので、定期型の商品が選ばれるのはレアケースとなります。定期型に加入した場合、一般的に10年自動更新タイプの商品が多く、いざ病気に罹患しやすい年齢に到達した際、その時の更新保険料が非常に高額になっているというのは、お客様にとって納得しがたいものがあります。

 ただし、若くしてまだ給料水準が低く、高額の保険料を支払えないものの、身の回りの人が病気になったのを見て不安に感じたお客様が定期型に加入することはあります。しっかりとした統計データはありませんが、第三分野商品の場合、定期型の販売件数は、終身型の約1/10と言われている程、定期型と終身型でマーケット規模が大きく異なります。

 なお、特定の治療方法を特定して保障している商品の場合、その治療方法が将来も続くかわからない点については、一生涯にわたって同一保障が続く終身型は課題があります。一方、定期型の場合は、更新時に古い治療方法に対応した保障を外して、最新の治療方法に対応した保障を新たに付加できるというメリットがあります。ただし、お客様にとって何十年も先のこのようなケースをイメージすることは難しく、これを持って定期型のメリットと呼ぶのは苦しい気がします。

【募集者の立場】

 募集者にとって、定期型の商品はお客様のニーズが少ない上、保険料が安くて結果的に募集手数料も少なくなりがちですので、販売するインセンティブは働きにくいのが実情です。強いて挙げるなら、既に終身型の商品に加入している未取引のお客様に対して、保険の切り替えを狙って、保険料の安さを切り口として提案するケースがあります。つまり、ドアオープナー商品としての位置づけです。

 生命保険会社が自社商品を販売するにあたり、保険料の低廉な少額短期保険をドアオープナー商品として使うケースと似ています。もちろん、昔から定期付終身保険の既加入者に対して、収入保障保険を武器として提案して切り替えるというセールステクニックは今でも続いており、コンサルティングセールス用の定期型商品は今でも存在します。

 ただし、顧客本位の業務運営に起因する比較推奨提案の問題を置いておいて、定期型と終身型のどちらの商品をお客様に売りたいかと聞けば、多くの募集人の方は終身型を選ぶのではないかと思います。

【生命保険会社の立場】

 定期型の販売量は終身型と比べて少なく、特に第三分野商品の場合は、約1/10であると前述しました。さらに、終身型と比べると、定期型はモラルリスクが混入するケースが多く、実績支払率も高くなりがちです。結果として、商品の収益性は終身型の方が圧倒的に高くなるケースが一般的です。それでは、生命保険会社が新商品を開発する際、必ず終身型を選択するかというと、実際はそうではありません。次のようなケースにおいて、生命保険会社は終身型よりも定期型の商品開発に踏み切ることがあります。

〇終身型の販売競争が激しいとき

 生命保険会社が新商品を開発するとき、当然のことながら売り上げ拡大を狙います。しかし昨今の終身型の販売競争はかなり厳しいものがあります。特に第三分野商品の場合、1年に1回の商品改定を行う会社もあるなど、限りなくレッドオーシャンと言える状況にあります。生命保険会社にとって、新商品開発は数億円を要する一大プロジェクト。生半可な終身型の新商品を市場に参入しても、競合他社と勝負するのは難しく、競争優位に立つためには、募集人専用コールセンターの用意や、アンダーライティングを緩くするなどの全社的な対応が必要になります。このようなとき、終身型より定期型を選択することがあります。

〇インターネット販売が中心のとき

 対面型チャネルでの販売を中心と考えているならば、前述のように募集人のニーズの高さから終身型の商品開発が望ましいと言えます。しかし、インターネットなどの非対面チャネルでの販売を中心と考えている場合はその限りではありません。非対面販売においては、懇切丁寧に保障内容を説明してくれる募集人は介在しませんので、非常にわかりやすい保障内容で低廉な保険料水準に設定する必要があります。したがって、このようなとき、定期型の方を選択することがあります。

〇リスク量を下げたいとき

 2026年3月末決算からESR(経済価値ベースのソルベンシー比率)が導入されました。これに伴い、各生命保険会社は商品開発戦略についても見直しを迫られています。ESRの計算上、定期型よりも終身型の方が一般的にリスク量は高くなります。その結果、ESRの基準値を維持するためにも資本が必要となりますが、これは資本力が脆弱な中小の生命保険会社にとっては死活問題となります。ESR導入以前から、終身型の商品を発売する際は、契約初期の責任準備金負担、つまり資本金が必要とされてきましたが、ESRの導入により、さらにその必要性が増しました。つまり、ESRの導入により、終身型よりも定期型の商品を選択する生命保険会社が増えるかもしれません。

 定期型を選択する少ないメリットを前述してきましたが、やはりマーケットの規模的にも、終身型の方がメリットは多く、終身型が生命保険市場の主流を占める傾向は今後も続くと思われます。

(アクチュアリー)

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