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生命保険ビジネスの「みらい」展望(2)顧客体験を再定義する ―生命保険のDXは「共創」がキーワード

2024年12月10日

 筆者は住友生命保険相互会社でデジタルとデータを使いながら企業や自治体との共創を行い、新しい顧客価値を創造する仕事を担当しています。本連載では、生命保険会社の新しい顧客価値創造領域である保険以外のビジネスドメイン「非保険領域」に関する内容をテーマします。

 筆者はデジタルやデータを使った顧客価値向上や新ビジネス発想研修を社内や社外企業、自治体向けに多く実施しています。最近、社内向け研修で、お客さまサポート部門の職員から相談を受けました。

「お客さまから『保険料の支払いを家計簿アプリと連携させたい』というご要望をいただいた場合、どうすれば短い期間でシステム対応できるでしょうか。」

 以前であれば、こうした要望には「システム上の制約ですぐには対応できません」と答えていました。しかし今は違います。筆者のチームはこのような相談を受けると、まずは自分たちの人的ネットワークだったり、SNSの友達だったり、名刺管理ソフトで過去にお会いしたことのある家計簿アプリ企業やフィンテック企業との協業を検討し、APIでの連携実現に向けたプロジェクトをスタートすることができるようになっています。このようなスピード感を持った検討開発体制への変化は、弊社だけでなく、多くの生命保険会社でも実現されていると思います。これらは生命保険ビジネスの変化を象徴しています。

◇デジタルで変わる顧客体験

 生命保険業界における顧客体験(CX:Customer Experience)は、大きな変革期を迎えています。従来の生命保険は「保険商品ありき」で、お客さまが自分で考えて(生命保険会社が用意した)保険商品を選んでいただくというスタイルでした。しかし、今のお客さまが求めているのは、自分のライフスタイルに自然に溶け込むようなシームレスな保険選択や加入体験です。

 弊社の調査では、多くのお客さまがデジタル化に期待していますし、デジタル手続きに高い満足感を持っています。保険加入時や保全変更、給付金の手続きをデジタルで完結させたいという声や、スマートフォンアプリでの情報収集などを希望する声など、デジタル完結というスピードの速さや、移動せずどこからでも手続きや情報を入手できることを求める声が多くなっているのです。

◇新しい顧客体験への挑戦

 お客さまの期待に応えるべく、弊社は三つの取り組みを進めています。一つ目は「エンドツーエンド(最初から最後まで)のデジタル化」です。例えば、PayPay様と弊社グループで提供する「熱中症お見舞い保険」や「インフルエンザお見舞い保険」、Johnson &Johnson様と共同開発している「めまもり保険」などのデジタル完結型保険では、スマートフォンだけで加入手続きが完結します。その結果、申込から契約成立までの時間を大幅に短縮することができています。

 二つ目は「データを活用した体験のパーソナライズ」です。弊社のスマホアプリでは、今後、一人ひとりの契約内容、健康データ、ライフイベント情報などを統合的に分析し、最適なタイミングで、最適な情報や提案をお届けできる機能を検討しています。例えば、結婚・出産などのライフイベントを迎えられたお客さまには、イベントの前後で必要となる保障の見直しを自動で提案したり、健康診断で気になる数値が出たお客さまには、オンライン医療相談をご案内するなどの機能が考えられます。

 三つ目は「エコシステムによる価値共創」です。生命保険会社単独では提供できない価値を、様々なパートナーとの協業で実現していく取り組みは既に実施していますが、さらに拡大していきたいと考えています。フィットネス事業者との連携による運動プログラムの提供や、食品宅配サービスとの協力による健康的な食事の提案、金融機関との協業による資産形成アドバイスの提供など、お客さまの生活に寄り添った総合的なサービスの展開を目指しています。

◇お客さまとの共創がもたらす気づき

 取り組みを通じて、弊社では「お客さまとの共創」の大切さを学びました。当初、自社だけで完結するサービスや機能の開発しか考えが及びませんでした。しかし、健康増進型保険やその関連のサービスを開始してみると、お客さまから「予想もしなかった使い方やニーズ」が寄せられました。

 例えば、健康増進型保険のアプリに実装した「お客さまが仲間と一緒に歩数を競う機能」。これは当初のサービスにはなかったのですが、職場の同僚や家族でグループを作って利用したいという声が多く、機能を追加したところご利用いただける方が増えました。

 「家族で散歩する習慣ができました」「職場の仲間と楽しく競い合えるので続けられます」「孫と一緒に歩数を競争することが日課になりました」など、コミュニティの力で健康づくりを促進できています。

 また、健康活動へのご褒美として当初用意していたドリンクチケットも、お客さまの声から進化させることができました。「映画のチケットが欲しい」「水族館などの割り引きチケットなら家族で遊べる」健康茶の割引チケットが良い」といったご要望を受け、提携先を拡大しました。

 お客さまとの対話を通じて、サービスは進化を続けています。「あったらいいな」という声を実現していくことで、魅力的な体験を作り出すことができるのです。

◇「みらい」に向けて:「保険体験」から「生活体験」へ

 生命保険会社に求められるのは、単なる「保険商品」の提供ではありません。お客さまの人生に寄り添い、より豊かな生活を実現するための総合的なソリューションを提供していく必要があり、三つの視点が重要だと考えています。

 一つ目は、お客さまとの対話を通じた価値の共創。二つ目は、多様なパートナーとのエコシステム構築。三つ目は、データとテクノロジーを活用した価値の向上です。

 これら三つの具体的な取り組みの積み重ねが、生命保険業界の未来を創ると確信しています。

*次回は、企業の健康経営支援と福利厚生サービスの展開について、具体的な事例を交えながらご紹介します。

(住友生命保険相互会社 エグゼクティブ・フェローデジタル共創オフィサー デジタル&データ本部 事務局長)

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