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保険代理店の「DXミライ展望」(2)~DXによる業務効率化~事業規模に応じたDXの取り組み~

2025年03月04日

◇はじめに

 私は生命保険会社で長くデジタル領域を担当し、銀行窓販・郵政窓販の立ち上げや保険ショップの支援、大手保険ショップのデジタルアドバイザーを経験してきました。

 本連載では、その知見を活かし、代理店の皆様がDXを実現するための具体的なヒントをお伝えします。また、保険代理店業界におけるデジタル・トランスフォーメーション(DX)の現状と課題、成功事例から将来展望までを全5回にわたり考察します。

 第2回では、保険代理店の業務効率化に関するDXの取り組みについて解説します。煩雑な事務手続きや社内業務をデジタル化・自動化することで生産性を向上させ、空いたリソースを付加価値の高い業務(顧客対応やコンサルティング等)に振り向けることが目的です。大手と中小それぞれの事例を交えながら、業務効率化DXの現状と効果、乗り越えるべき課題を考えます。

◇業務効率化が求められる理由

 保険代理店の業務には、

・保険の見積書作成

・申込書のチェック

・保険会社システムへのデータ入力

・契約後の帳票整理

・入出金管理

・顧客情報の更新

など、多くのバックオフィス業務が存在します。従来から、これらの業務の多くは手作業で行われ、人手に依存する部分が大きく、生産性向上の課題となっていました。特に、乗合代理店では、保険会社ごとに異なるシステムへ重複してデータ入力する必要があり、担当者には大きな負担となっていました。こうした非効率を解消し、限られた人員でより多くの契約を正確に処理するために、DXによる業務効率化が強く求められています。

 また、人手による大量の作業で発生しがちな「人的ミスの防止」も重要な目的です。複雑な計算や入力作業はヒューマンエラーのリスクが伴います。しかし、デジタルを活用して、たとえばRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)を活用すればミスを減らすことができます。保険契約のミスはお客様の信頼を損ねるだけでなく、保険業法上の問題にもなりかねませんので、DXで正確で安定した事務処理を実現することは、コンプライアンスの観点からも重要と言えるでしょう。

◇デジタル化による効率化の現状

 大規模乗合代理店では既に社内システムを統合し、契約手続きをほぼ電子化している例があります。見積もりから申込までを一元管理できる独自システムを導入し、紙の申込書記入を極力少なくしています。これは、タブレット上でお客様に署名をいただき、そのまま各保険会社へ電子申請を行える仕組みです。この結果、契約書類の郵送やデータ転記の手間が省かれ、契約処理にかかる時間が大幅に短縮されました。また、契約内容は自動的にデータベースに蓄積されるため、後の顧客フォローや分析にも活用できます。

 中堅規模の代理店でも、比較的DXが進んでいる例があります。たとえば、従業員20~30名規模のある代理店では、RPAツールを導入して保険会社のシステムへのデータ入力を自動化しました。これまでは、各社のウェブシステムに担当者がログインして、同じ顧客情報を何度も入力する必要がありましたが、RPAにより見積システムから各社システムへの転記作業を自動化し、人手を介さず処理できるようにしました。その結果、月に数百件も発生する契約データ入力の工数が削減され、人員を顧客対応に振り向けることができています。

 中小代理店の取り組みとしては、クラウドSaaSサービスの活用が進んでいます。たとえば、数名規模のある代理店では、これまで手計算していた保険料の試算をSaaS型見積システムに切り替え、提案書も自動生成するようにしました。また、顧客管理にはオンラインの顧客データ共有SaaSサービスを使い、チームでリアルタイムに情報共有できるようにしています。

 こうしたクラウドサービス化の流れに合わせ、保険業界向けの専門サービスも登場しています。たとえば、保険代理店向けSaaSを提供するスタートアップ企業では、代理店経営をトータルで支援するクラウドサービスを開発しています。同社のシステムは顧客管理から契約管理、収支管理まで一元化でき、保険会社各社からの手数料データを自動取り込みする機能も備えています。金融データ連携プラットフォームとの連携によって、銀行口座の入出金明細を自動取得し、保険料の入金消込作業を自動化する仕組みなども追加されています。 これにより、従来は担当者がインターネットバンキングにログインしてCSVをダウンロードし、手作業で行っていた入金確認が不要となり、大幅な時間短縮とミス削減が実現します 。このようにInsurTech企業のサービスを活用することで、中小代理店でも高度なDXを比較的容易に導入できるようになっています。

◇業務効率化DXの効果

 DXによる業務効率化によって、保険代理店にはさまざまなメリットがもたらされています。

1)生産性向上

 手作業の自動化により処理件数当たりの所要時間が短縮され、限られた人数でより多くの契約を扱えるようになることで、売上拡大や残業削減にもつながります。

2)コスト削減

 紙の使用量や郵送費の削減、ミスによる手直しや不備対応の減少により、間接コストが下がります。長期的には人件費の効率的活用(増員を抑制しつつ事業拡大)にも寄与します。

3)サービス品質向上

 事務処理が正確かつ迅速になることで、顧客への回答・対応スピードが上がり、満足度向上につながります。また、業務データが蓄積され分析可能になるため、顧客ニーズを踏まえた提案やフォローアップなど質の高いサービス提供が可能になります。

4)従業員満足度向上

 単調な入力作業や書類整理から解放されることで、社員の負担感が軽減し、本来の営業やコンサルティングに集中できるようになり、働きやすい環境づくりにも資するでしょう。

◇業務効率化DXの課題と対策

 一方で、業務効率化のためのDX推進にはいくつかの課題も存在します。

1)初期投資と費用対効果

 システム導入やRPA開発には初期費用がかかり、中小代理店にとっては負担となる場合があります。費用対効果が見えにくいと導入に踏み切れないため、まずは小規模でも効果を実感できる部分(例えば特定の帳票処理の自動化など)から取り組み、成功事例を積み上げることが重要です。

2)デジタルリテラシー

 新しいツールを使いこなすには従業員のトレーニングが必要ですが、デジタルが苦手な社員もいます。現場に定着させるには、段階的な研修やマニュアル整備、サポート体制の構築が欠かせません。ベンダーによる支援サービスを活用するのも有効です。

3)システム間連携

 一部の業務をデジタル化しても、他の業務と繋がっていなければ効果は限定的です。各種ツールやシステムを統合しデータをシームレスに連携させることが理想ですが、既存システムとの相性や標準化の問題があります。業界全体でデータ連携の標準を模索する動きもありますが、個社レベルでは柔軟なAPI連携が可能なツールを選ぶ、自社内でRPA・スクリプトを駆使して連携させるなどの工夫が求められます。

4)セキュリティとコンプライアンス

 デジタル化に伴い、サイバー攻撃や情報漏洩リスクへの対策も強化する必要があります。また、電子化したデータの改ざん防止やバックアップなど、ITガバナンスもしっかり整備しなければなりません。保険代理店として遵守すべき規制(例えば電子契約の要件や個人情報保護の規制)を確認し、ツール選定や運用ルールに反映させることが重要です。

◇まとめ

 業務効率化のDXは、目に見えるコスト削減や時間短縮など直接的な効果が得られるため、比較的取り組みやすい領域です。小さな改善の積み重ねでも、全体として大きな効率向上につながる可能性があります。また、業務をデジタル化しデータを蓄積することは、次に続く顧客対応やマーケティングDXの基盤ともなります。まずは身近な業務からDXを進め、生産性向上のメリットを享受しつつ、働き方改革やサービス品質向上へとつなげていきましょう。

 次回、第3回では、顧客対応のデジタル化に焦点を当て、顧客との接点を強化・効率化するDXの取組事例やポイントを解説します。

(住友生命保険相互会社 エグゼクティブ・フェローデジタル共創オフィサー デジタル&データ本部 事務局長)

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