ゲストさん   
 
【inswatch記事カテゴリ】
inswatch新着記事 一覧はこちら

め・て・みみ 満期業務の変革を通じ代理店成長への道行を具体的に示すー書評「尾籠裕之著『生産性1500万円モデルの進展』

2025年10月07日
【ニュース】

 尾籠裕之著『生産性1500万円モデルの進展ー保険代理店の成長は満期業務の変革から』が保険毎日新聞社から刊行となった。

https://homai.co.jp/

 本誌でも同氏執筆の「生産性1500万円モデル」を連載中で読者にはお馴染みだが、保険代理店とりわけ損保と生保を併売する専業(プロ)代理店にとり、代理店の経営の仕組みを、満期管理などの業務プロセスという『暗黒大陸』に分け入り、パイオニア精神で、代理店の実際の現場でのフィールドワークに基づき、データ検証するとともに現場の意見を収録し、簡潔かつ明快に解き明かした、いわば「代理店経営の解体新書」と言えるものだ。

 長らく、代理店経営は、契約獲得のスーパーセールスパーソンを軸にした職人技、属人性を色濃くしたもので、内務事務は補助的地位に押しやられ、代理店を測る尺度も保険料の多寡に置かれてきた。代理店もまた保険会社に依存し、代理店経営の主体性・自主性とは程遠いものだった。こうした職人文化的代理店像は、組織化された現在の代理店の経営体質にも色濃く残っており、顧客本位、代理店品質が強く求められる今日の状況下では、事業の継続性と組織化・人材確保面できわめて危ういモデルでもある。

 尾籠氏は、専業代理店が顧客との間に培った信頼性や強みを生かしつつも、事業を継続していくためには普通の人材でも担え、組織化できる代理店モデルが必要と考え、実際は大半の収益を生み出す満期更改を担う内務事務の役割の重要性にいち早く気づき、その戦略性に着目し、また経営尺度として売上高に当たる手数料を尺度に代理店を生産性の観点から評価すべきと画期的な提言をしてきた。その際、属人的にゆだねられてきた内務事務の業務プロセスを洗い出し、無駄や重複を省くことが生産性向上の基本となること、さらに顧客の層別管理により更改業務を内務が担い、営業の役割を絞り込み明確化するとともに、案件創出に営業と内務が情報共有し取り組むこと、新たに「標準営業活動」を提起、さらにそのためのIT活用、グループウエアやRPAなど代理店業務のシステム化などの重要性を指摘するなど、これからの市場変化に対応した高付加価値提供型代理店経営像を仮説・検証しながら提起し続けてきた。

 本書は、副題にもある通り「保険代理店の成長は満期業務の変革から」というフレーズが端的に示している。2021年に刊行した前著『保険代理店の生産性1500万円モデル』では代理店を成功に導く6つのポイント(経営資源の適正配分、更改業務を事務担当者、事務が組織力を強化、営業の役割を絞る、案件創出の組織化、ITの本格活用)を仮説を含め打ち出したが、その後、このモデルに取り組む20に及ぶ先進的代理店の実践(成功や失敗)に関する調査結果を踏まえ検証し、鍛え上げたものとなっている。

 いわば、15モデルの進展として、このモデルをいち早く取り入れ成長しつつある先進代理店の実践事例というフィルターを通して、モデルの検証と新たな到達点を提起したことと、そのうちの7つの典型代理店事例を紹介することで、これから、15モデルに関心のある代理店への前著が15モデルの定式化に主眼を置いたのに対し、本書は、まさに応用編となるもので、再検証の結果を反映させ、無駄な回り道をせずに早く成果にたどり着けるように、具体的な取り組みをする際の着眼点・進め方・留意点を指南してくれるものに仕上がっている。

 中でも「3、内務による更改」の壁(障害)と成功要因、「4、満期業務」について満期管理=工程管理(品質、成績、進捗)の重要性と手法、「6、システム化」における正データと副データ、保険会社の代理店システムと代理店業務システム(工程管理システム)、RPAの役割は大変示唆に富む。

 本書の構成に則して具体的な特徴を挙げると以下の通り。

1)生産性(保険料でなく、スタッフ1人当たり手数料)を尺度とし、顧客=市場評価の証としての1500万円達成モデル(15モデル)を提示している。本書では、最初に、代理店成長モデル(生産性1000万円)から15モデルへの進展過程それに15モデルのエッセンスが簡潔かつ大変わかりやすく紹介している。

2)売上げの約9割を占める内務事務、更改事務を15モデルの果実を得る活動とし、成功事例に共通する戦力化のポイントを挙げている。

3)暗黒大陸、混然一体で営まれてきた満期管理業務を工程管理を取り入れ見える化した点は画期的。

4)15モデル遂行には一定以上の組織力が必要とし、特に内務事務社員の意識改革と改善活動遂行力強化が必要だとしている。

5)システム化が今後の代理店の死命を制するとし、システム化を数段上げる必要を指摘、特に満期更改管理のシステム化がポイントとし、具体的システム化事例を紹介している。代理店システムの正データと副データ、保険会社の代理店システムと代理店業務システムとの関係など実に示唆に富む。

6)専業代理店の市場は拡大するとし、市場変化への対応での成功事例を紹介している。

7)「シン15体制」では、内務と営業の役割分担から、新たに、内務を顧客接点を受け持つフロントとバックに分け、バックに、システムを含めたコントロールタワー機能を持たせている。

8)代理店事例として、ソフィアブレイン(満期プロセス標準化、システム活用、内務の役割拡大)、ユナイテッド・インシュアランス(DXで満期プロセス標準化、内務の役割拡大)、ほけんプラザエイプス(満期プロセス標準化、内務の役割拡大、RPAを活用し満期管理、シニアテラス事業に進出)、アイ・ビー・エス(法人顧客の更改・保全を内務が担い、社長・営業担当が新規市場開拓)、西日本総合保険=ING(RPAを活用し満期案内作成で大幅効率化・標準化、内務による更改)、中央ビジネス(RPAを活用し大幅な効率化・標準化、少人数ながらシステム担当者置き効率的な業務プロセス実現)、あいおいニッセイ同和インシュアランスサービス(RPA活用の満期案内作成、案件会議の実践、新種サポートセンター設置)という7つの実践事例を詳しく紹介している。

 本書は、満期業務の変革を軸とした15モデルという仮説の提唱と各地の先進的現場代理店の実践の検証・再検証を通じ、代理店経営のこれからを見据え何をすべきかを明確かつ簡潔に示す、最良の経営指南書でもある。主体的にこれからの時代に立ち向かおうという代理店にはぜひともこれを熟読吟味し活かしてほしい、きっと新たな地平が切り開かれることだろう。

 (中)

Copyright© 有限会社インスウオッチ,All rights reserved.