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50歳のリスキリング - ユカとカズの往復書簡(1)なぜ今リスキリングなのか
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2025年10月21日
【DX】
◇はじめに この連載は、生命保険会社のシステム部門に長年勤めてきた先輩・カズさんと、同じグループ会社のシステム関連会社で会計・総務を担当してきた後輩・ユカさんとの往復書簡のかたちで話が進んでいきます。 ユカさんは50歳を目前に、「このまま同じ仕事を続けていてよいのか」という不安を抱え、思い切ってシステム開発部門へ異動しました。若い頃は将来のキャリアを考える余裕もなく、一所懸命に与えられた日々の業務に向き合ってきた彼女にとって、これは大きな挑戦でした。 カズさんは、20年前に大阪で一緒に働いていた時からユカさんの将来を気にかけていました。ユカさんが初めて「学び直し」に挑む姿を、先輩として応援しつつ、時に具体的な助言を送り続けました。 全10回の手紙で、50歳前後でキャリアを転換しようとする人が直面する悩みや葛藤、そして小さな成功や発見を紹介していきます。 ◇なぜ今リスキリングなのか――ユカさんからの手紙、カズさんの返事 -------------------------------------------------------------------- 【ユカさんの手紙 】 拝啓 カズさん 本当にお久しぶりです。大阪で一緒に仕事をしてから二十年近くの時間が経ちました。私がまだ二十代の頃、よく「もっと将来を考えてみなさい」と言ってくださったことを覚えています。あの頃の私は特に反発するわけでもなく、ただ目の前の業務をこなすのに必死で、将来のことを考える余裕はありませんでした。流されるように働き、毎日を必死に回しているだけだったと思います。 私は保険会社のシステム関連会社に勤めてきましたが、システム開発の経験がほとんどなく、会計・総務関係の業務に二十年以上携わってきました。いわゆる裏方として会社を支える仕事です。責任はありますが、キャリアやスキルといった意識を持ったことはなく、「必要とされる限り、この仕事を続けていこう」と思っていました。 けれど五十歳が近づき、考えることが増えました。業務は大きく変わらないのに、世の中の変化は目まぐるしい。AIやクラウド、デジタル化が話題になり、周囲でも新しい仕組みが導入されていく。そんな流れの中で、「改善したい業務はあるのにスキルと知識が足りない!」ということに気づきました。 そんな折、同業他社の方と合同でチームを作り、短期間で新技術を学んでプロトタイピングするという交流会への公募がありました。研修やハンズオンで新技術を学ぶ仕組みがあり、未経験でも挑戦できる。怖さはありましたが、挑戦しなければ何も変わらないと思い、手を挙げました。家族や同僚には驚かれましたが、自分の未来を自分で選ぶ機会だと感じたのです。 交流会の参加者は私より一回り以上若い人が多く、システム開発系のスキルでは助けてもらうことばかりでした。チーム活動で私が役に立てることがあるのだろうかと焦りを感じましたが、みんながやったことがないことであれば、私でもなんとかアウトプットできたのでした。システム開発の経験がほとんどなくても、今までの事務の経験がチームの役に立つことも実感できました。 この実感を握りしめて、社内転職する覚悟で異動を願い、チャレンジする機会を与えていただきました。 今、大阪を離れて東京で新しい生活を始めています。会議では専門用語が飛び交い、若い同僚たちが次々とアイデアを出しています。私はノートにびっしりとメモを取り、調べる毎日です。置いていかれるような感覚に悔しさを覚えつつ、同時に「まだ学べる」という手応えも感じています。 二十年前に将来を考えるように言われたときには受け止められませんでした。でも今、自分なりに意味を理解し始めた気がします。私のような人間の挑戦にも価値があるのでしょうか。ご意見をいただければ幸いです。 敬具 ーユカ -------------------------------------------------------------------- 【カズさんの返事 】 ユカさんへ。 お手紙をありがとう。二十年前の大阪の日々が懐かしく思い出されました。君が毎日の仕事に追われていたとき、私は「将来を考えなさい」と言いましたね。あのとき君は反発するでもなく、ただ流れるように過ごしていた。それはある意味仕方がないと思っていました。若い頃は目の前の業務で手一杯になるものです。だからこそ、今こうして自分から今後の自分の姿を見ようとしていることに大きな意味があります。 「同業他社との交流会で若い人たちのスキルに焦りを感じた」と書いていましたね。それは多くの人が不慣れな場で抱く感情ですが、実際に行動に移せる人は多くありません。君は不安を抱えながらも、公募に応募し、大阪を離れて東京で挑戦する決断をしました。その一歩はなかなかできるものではなく、とても価値のある行動です。 二十年以上の会計や総務の経験は無駄ではありません。裏方の業務を支えてきた経験は、デジタル時代にこそ必要とされます。新しい仕組みを導入するとき、実際の業務を理解し、制度や運用に落とし込める人材は欠かせません。君が積み重ねてきた知識と知恵は、デジタル企画の現場にとって強力な武器になります。 五十歳からの学び直しを「遅い」と考える人は多いと思います。いまさらという人も多いでしょう。しかし私はむしろ「適した年代」だと思います。現場の積み重ねがあるからこそ、新しい知識が意味を持ちます。若い人の柔軟さとスピードに対し、君には制度や組織を理解する力、長期的な視点があります。その二つが合わさることで新しい価値が生まれます。 ユカさん、二十年前の言葉を今ようやく受け止めてくれたのだとしたら、それは正しいタイミングです。学び直しはリセットではなくアップデート。これまでの経験を活かしながら、新しい力を得て未来をつくる営みです。焦る必要はありません。着実に一歩ずつ学びを積み重ねてください。私はこれからも応援しています。 敬具 ーカズ -------------------------------------------------------------------- 【結 び】 ユカさんのように、五十歳を前にしてリスキリングに挑む人は増えています。長く同じ業務に携わってきた人にとって、デジタルや新しいスキルへの挑戦は不安を伴います。しかし、その経験と現場知をデジタルに重ね合わせることで、新しい役割を果たすことが可能です。 リスキリングは過去を否定するものではありません。むしろ積み重ねを未来に活かす手段です。企業にとっても、経験ある人材が学び直しを通じて新しい分野に挑むことは、DXの推進に不可欠です。 大切なのは「いつから始めるか」ではなく、「自分で選んで始めるかどうか」です。リスキリングに必要なのは「絶対やる」「こういうスキルが欲しい」「自分の素晴らしい未来を思い描く」ということ。これがあれば、やり続けることができると思います。 (住友生命保険相互会社 エグゼクティブ・フェロー デジタル共創オフィサーデジタル&データ本部 事務局長) |
