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50歳のリスキリングーユカとカズの往復書簡(2)異動の決断と最初の不安
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2025年11月18日
【DX】
◇はじめに この連載は、生命保険会社のシステム部門に長年勤めてきた先輩・カズさんと、同じグループ会社のシステム関連会社で会計・総務を担当してきた後輩・ユカさんとの往復書簡のかたちで話が進んでいきます。 ユカさんは50歳を目前に、「このまま同じ仕事を続けていてよいのか」という不安を抱え、思い切ってシステム開発部門へ異動しました。若い頃は将来のキャリアを考える余裕もなく、一所懸命に与えられた日々の業務に向き合ってきた彼女にとって、これは大きな挑戦でした。 カズさんは、20年前に大阪で一緒に働いていた時からユカさんの将来を気にかけていました。ユカさんが初めて「学び直し」に挑む姿を、先輩として応援しつつ、時に具体的な助言を送り続けました。 全10回の手紙で、50歳前後でキャリアを転換しようとする人が直面する悩みや葛藤、そして小さな成功や発見を紹介していきます。 ◇異動の決断と最初の不安――ユカさんからの手紙、カズさんの返事 -------------------------------------------------------------------- 【ユカさんの手紙】 拝啓 カズさん 東京での生活が始まり、もうすぐ一か月になります。新しい職場に足を踏み入れてから、これまでとはまったく違う毎日が続いています。 私が異動した組織はデジタル&データ推進部門です。異動を希望した理由は、会計・総務系の事務業務を、担当者の個々の経験や能力に依存せず、誰が担当しても安定した質を維持できるような仕組みづくりに貢献したいと考えたからです。従来の担当者が、さまざまなことを意識しながら無意識のうちに工夫してきた業務プロセスを、システム化によって「属人化」から脱却し、組織全体で持続的に高い品質を保てる事務へと進化させたいという思いがあったからです。 システム化についての専門的な知識やスキルはないものの、技術者の方々にサポートいただきながら進めていきたいと考えています。私は長年事務に携わってきた経験から、現場の担当者が持つ業務へのこだわりや思いをしっかりと引き出し、それを技術者へ伝える「橋渡し役」として役に立ちたいと思っています。現場と技術の間をつなぐことで、より実効性の高いシステム導入を目指し、組織の業務改善に貢献したいと強く願い、異動を希望しました。 大阪から東京に引っ越す決断は簡単ではありませんでした。親は高齢で、これまでは同居で支えてきました。大きな病気を経験し、今は回復して元気でいてくれているものの、高齢の親を残して東京で暮らすことに後ろめたさがありました。それでも、自分の未来のために一歩を踏み出さなければ後悔すると考え、説明した結果、納得・応援してもらえたので、東京への引っ越しを伴う異動を希望することができました。 今は小さな賃貸マンションで暮らしています。東京での生活は勝手が違い、物価は高く、通勤電車は行き先の地名に馴染みがないため、その都度ナビアプリで確認しています。体力維持を最優先とし、休日は近場を散歩したり、ジムに通ったりしています。 職場ではいろんな会議に参加しています。専門用語が飛び交い、知らない言葉が次々と出てきます。私は必死にメモを取り、ネットで検索し、用語を確認しています。若い同僚たちは自然に議論に参加しており、自分の知識・経験不足を痛感する日々です。 あまりにも知らないこと、わからないことが多く愕然としますが、この現実を知らないままでなくてよかった、気づけて良かったと思います。学び直しは簡単ではありませんが、挑戦することを選んで良かったと思いつつ、みんなの邪魔をしていないかと不安になることもあります。 カズさん、異動して最初に感じるこの不安は自然なものなのでしょうか。私は間違っていないのでしょうか。どうか教えてください。 敬具 ーユカ -------------------------------------------------------------------- 【カズさんの返事】 ユカさんへ。 東京での新生活、大変ながらもよく頑張っていると思います。親御さんを大阪に残してきたことを心配していると書いてありましたが、その気持ちはよくわかります。けれど、離れて暮らしているからこそ連絡や帰省を大切にするようになり、かえって一緒に過ごす時間を濃くできるものです。後ろめたさを抱く必要はありません。親御さんも、きっと君の挑戦を誇りに思っているはずです。 異動後の不安は当然です。環境が変われば誰もが戸惑いますし、特にデジタルの世界は専門用語やスピード感が独特です。最初から理解できなくて当たり前です。大事なのは「ついていけない」と思って手を止めないこと。君がメモを取って後で調べているというのは、とても良い姿勢です。知識は一度で身につくものではなく、繰り返すうちに自然と定着します。 若い同僚と自分を比べて落ち込む必要はありません。彼らはスピードがありますが、経験はまだ浅い。君には会計や総務を通じて組織を支えてきた実績があります。新しい知識とそれまでの経験を結びつけることで、君にしかできない貢献が必ず見えてきます。 今の不安や迷いは、決して間違った道を選んだ証ではありません。むしろ、新しい環境に飛び込んだからこそ生まれる健全な感情です。大事なのは、そこから逃げずに少しずつ慣れていくことです。 ユカさん、二十年前に伝えた「将来を考えろ」という言葉を、今になって行動に移したこと。それ自体がすでに大きな成果です。焦らず、自分の歩みを信じて進んでください。 敬具 ーカズ -------------------------------------------------------------------- 【結 び】 異動直後に不安や孤独を感じるのは自然なことです。特に親を地元に残してきた場合や、初めてデジタル分野に挑戦する場合は負担が大きくなります。しかし、その不安を抱きながらも一歩を踏み出すこと自体に大きな意味があります。 リスキリングは知識の獲得だけでなく、環境の変化に順応し、自分の役割を再定義する過程でもあります。最初は戸惑いの方が大きくても、経験と学びを重ねることで徐々に自信は積み上がります。 異動後の不安は失敗の兆しではなく、成長の入り口だと理解することが重要です。 大事なのは、自分が前に進んでいるのかを振り返ってみることです。1ヵ月前と今、1週間前と今、昨日と比べて今日はどうだったか?その時、進んでいると少しでも感じると、続けることができるし、成長を実感できる。私はそう思います。 (住友生命保険相互会社 エグゼクティブ・フェロー デジタル共創オフィサーデジタル&データ本部 事務局長) |
