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生命保険ビジネスの「みらい」展望(4)次世代を担う人材をどう育てるか ―デジタル時代の人材戦略

2025年01月14日

 筆者は住友生命保険相互会社でデジタルとデータを活用しながら、企業や自治体との共創を通じて新しい顧客価値を創造する仕事を担当しています。本連載では、生命保険会社の新たな顧客価値創造領域である、保険以外のビジネスドメイン、いわゆる「非保険領域」に関する内容をテーマとします。

 先日、筆者が所属するデジタル・データ統括部門に配属された若手職員から質問を受けました。

「生命保険業界でデジタル人材として成長していくには、何をどのように学べばいいのでしょうか?」

「これから生保業界では、どのような人材が必要とされると思いますか?」

 これらは、保険業界全体が直面している課題に深く関わるものだと思います。デジタル技術やデータ分析技術が急速に進化する中、企業で働く職員に求められる能力も変化しています。しかし、生命保険業界だけでなく、多くの企業ではこうした変化に十分対応しきれていないのではないでしょうか。

◇求められる人材像の変容

 かつての生命保険業界では、商品知識と営業力が人材育成の中心でした。しかし、現在では、それだけでは不十分です。新たなスキルセットとして、次のような能力が求められています。

●データサイエンスの知見を活用して顧客インサイト(洞察)を導き出すスキル

●最新テクノロジーを理解し、ビジネスに応用する能力

●従来の保険の枠組みを超えた新しい価値創造を行うスキル

 筆者は、社内外の多くの職員にデジタル知識やビジネスモデルの知識を身につけてもらう研修を実施しています。その中で感じるのは、従来は人が顧客や見込み客との接点を担っていたのが、現在では電子メール、メッセージ交換ツール、スマートフォンアプリなどのデジタル接点が追加されているという点です。それらを通じて取得したデータを活用し、顧客価値や潜在顧客価値を高めるスキルが必要とされています。これらは従来の生命保険会社の人材育成プログラムには含まれていないものであり、新たな取り組みが求められます。

◇次世代人材育成の新しいアプローチ

 顧客接点の変化に加え、筆者が経験した健康増進型保険開発プロジェクトの経験を踏まえ、自社では従来の研修体系を見直し、新しいデジタル人材育成プログラムを展開しています。その中核となるのが「ビジネス発想ワークショップ」です。

 これは単なるデジタル技術の研修ではありません。ビジネス課題の発見から解決策の立案までを、実践的なプロジェクト経験を通じて学ぶ場です。

 例えば、先日実施した他社向けのワークショップでは、若手・中堅社員が顧客データの分析を通じて、新しい健康増進アプリの企画を行いました。デジタル技術やデータ分析技術を活用し、顧客や見込み顧客向けの体験価値を高める機能やサービスを検討する手順を学んでもらいました。

◇世代を超えた学びの場づくり

 ワークショップでは、世代間の知識共有を重視しています。ベテラン社員が持つ深い業界知識と若手社員が持つデジタルセンス。この両者を融合させることで、新しい価値が生まれると確信しています。そのため、「年齢や所属の異なる受講者を混合したグループワーク」を導入しています。若手社員がデジタル技術を提案し、ベテラン社員が業界知識を活かした視点を提案する。このような相互作用が、組織全体の発想力強化につながります。

 ただし、研修だけで終わらせてはいけません。新しいビジネスやサービスを発想する訓練をしたら、それを実務で試す継続的な仕掛けづくりが重要です。

 そこで導入したいのが「イノベーションラボ」のような社内共創の場です。このような場所では、部署や役職の垣根を超え、自由な発想でプロジェクトを立ち上げることが可能になります。もちろん、顧客データの扱いやプライバシー保護を徹底しながら、失敗を恐れず小さく試してみる文化を醸成する場として機能させることが重要です。

◇テクノロジーと人間力の融合

 デジタル時代の人材育成では、テクノロジーの知識だけではなく、人間としての総合力が求められます。具体的には、以下の能力が重要です。

●本質的な課題を見抜く洞察力

●多様な専門家と協働するコミュニケーション力

●変化を恐れない柔軟な思考

●社会に価値を提供する使命感

 これらの要素は、デジタル技術やデータ分析技術が進化しても、変わらず重要なスキルです。人材育成においては、「人を育成する」という一方向の概念ではなく、異なる経験や視点を持つ人々が集まり、互いの強みを活かしながら新しい価値を生み出す「共創の場」を構築することが不可欠です。若手社員のデジタルセンス、中堅社員の実務経験、ベテラン社員の業界知見。これらが有機的に結びつくとき、真のイノベーションが生まれると筆者は考えます。

 これからの生命保険業界に必要なのは、単なるデジタル化ではありません。デジタル技術やデータ分析技術を活用しつつ、真に人々の役に立つ価値を創造するビジネスモデル構想力です。その実現に向けて、生命保険会社は、人材育成の取り組みも進化させ続ける必要があります。

*次回は、資産形成サービスとウェルスマネジメントの展開についてご紹介します。

(住友生命保険相互会社 エグゼクティブ・フェローデジタル共創オフィサー デジタル&データ本部 事務局長)

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