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生命保険ビジネスの「みらい」展望(7)異業種との共創が生み出す新たな可能性 ―保険を超えるイノベーション
2025年02月25日
【DX】
筆者は住友生命保険相互会社でデジタルとデータを活用しながら企業や自治体との共創を行い、新たな顧客価値を創造する仕事を担当しています。本連載では、生命保険会社の新たな顧客価値創造分野である保険以外のビジネスドメイン「非保険領域」に関する内容をテーマとしています。 筆者たちは異業種企業とのアライアンスやオープンイノベーションを推進する部門で、様々な企業との協業プロジェクトに携わっています。先日、提携候補企業との打ち合わせで以下のような話がありました。 「生命保険会社って、健康に関するデータをお持ちですよね。それを活用して、地域の特産品と組み合わせた健康増進プログラムが作れるのではないでしょうか。」 「地域の観光資源と生命保険会社の健康増進プログラムを組み合わせることで、健康的な観光プランを作れないでしょうか。地域活性化にもつながると思います。」 これらの声は、生命保険事業単独では創出できなかった新しい価値につながる共創のタネになります。筆者たちは長年にわたって、生命保険事業に関連する多くの情報をお客さまから預かってきました。お預かりすることだけが当たり前だと思っていたデータは、他の事業者や自治体などと組み合わせることで、新しい価値につながる可能性があります。 ◇異業種協業による価値創造 従来の生命保険業界は、独自の商品やサービスの開発が中心でした。しかし、デジタル化の進展に伴い、業界の枠を超えた協業の機会が増えています。例えば、筆者が経験した健康飲料メーカーとの協業では、お客さまの健康データと連携させることで、価値の高い健康増進プログラムが実現できると考えています。具体例として、健康飲料の割引定期購入と連動した健康ポイントプログラムや、健康状態に応じた商品の割引購入提案などは顧客価値が高いと思います。 地域の物産販売会社との取り組みでは、地元特産の健康食品や農産物の購入データと健康診断データを組み合わせた分析なども面白いと考えています。例えば、特定の食材を定期的に購入している顧客層の健康状態の変化を調査することで、効果的な商品提案や健康アドバイスができるかもしれません。 また、地域の観光地との取り組みでは、ウォーキングコースの設定や地域の特産品との連携により、健康増進と観光を組み合わせた「健康ツーリズム」や「温泉ツーリズム」「お祭りツーリズム」などの新しいプログラムの開発が期待できます。歩数や運動量のデータを活用し、観光客の健康増進と地域活性化を目指した観光地を巡るウォークラリーの開催、達成度に応じた地域特産品との割引購入など、観光客の健康づくりと地域経済の活性化を実現する取り組みはお客さまに喜ばれるのではないかと思います。 自治体との協業では、市民の健康データの分析結果を活用した地域特性に合わせた運動プログラムの開発が可能だと考えています。例えば、市民の年齢構成や運動習慣のデータから、地域に適した運動施設の設置場所を提案したり、地域の公園や遊歩道を活用した健康イベントの企画なども検討できるのではないでしょうか。 ◇データ活用の課題とリスク管理 協業を進める中では重要な原則を守らなければならないと考えています。それは「お客さまのデータはお客さまのものである」という考え方です。データ活用の目的は、お客さまへの価値還元であり、お客さま一人一人の生活の質向上に貢献することでなければなりません。 健康診断データや購買データの活用においては、単なる商品開発やマーケティングのためではなく、お客さまの健康増進や生活向上につながる施策であるかを検証する必要があります。すべてのデータ活用において、お客さまの同意を得ることはもちろん、活用目的と価値をお客さまに明確に説明できることが重要です。 生命保険会社として社会的責任も重要です。データを活用する際は、個人情報保護を最優先としながら、より広く社会に貢献できる取り組みを目指す必要があります。地域の健康増進や高齢者支援など、社会課題の解決につながるデータ活用を心がけるべきでしょう。 生命保険会社には、長年にわたってお客さまからの信頼のもと、多くの重要な情報をお預かりしてきた実績があります。この信頼関係を礎に、デジタル時代においても、お客さま本位のデータ活用を徹底していく必要があるでしょう。 ◇共創することで新たな価値を 協業を進める中で、いくつかの発見がありました。例えば、健康飲料メーカーとの協業では、お客さまの健康診断データと健康飲料の購買データの分析を進めています。現時点では初期段階ですが、健康意識の高いお客さま層における購買傾向や、継続的な健康飲料の摂取と健康診断結果の関係性について、興味深いパターンが見え始めています。 データ分析を進める中で、健康診断の受診行動と購買行動の関連性についても興味深い結果が見つかるかもしれません。例えば、定期的に健康診断を受診しているお客さま層の購買傾向を分析することで、効果的な健康増進プログラムの開発につながるヒントが得られないかと考えています。今後、より詳細な分析を重ねることで、生命保険商品との新たな連携可能性を探っていければと考えています。 今後、生命保険会社には、異業種や地域との連携を通じて様々なサービスをつなぐ役割が期待されます。お客さまのデータを活用した新たな価値創造により、地域社会の活性化や健康増進への貢献を目指します。そのために、個人情報の保護と透明性の確保を前提に、引き続き取り組みを進めていきます。 *次回は暮らしに溶け込む保険へ ―組み込み型保険が創る新しい価値についてご紹介します。 (住友生命保険相互会社 エグゼクティブ・フェローデジタル共創オフィサー デジタル&データ本部 事務局長) |