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め・て・みみ

2024年07月01日

損保協会、第三者視点入れた業界共通の業務品質基準策定へ

 6月28日に就任した損保協会城田宏明会長(東京海上日動火災社長)は、協会長ステートメントを発表し、本年度(2024年度)は、「保険金不正請求や保険料調整行為等、一連の不適切事案により大きく損ねた顧客からの信頼を回復させていくために、社会の常識と業界慣行のズレを再確認するとともに、法令等遵守の徹底と損害保険業の基盤を支える業務品質の向上を図っていくことにより、健全な競争環境を実現していく」、とした。また、同協会では、本年4月から第10次中期基計画の取組みをスタートさせているが、「自然災害への対応力強化」「デジタル化推進による利便性向上」「損害保険リテラシーの向上」を着実に前進させることで、真に社会から必要とされる業界を目指していく、とした。

 今後の具体的取り組みとして、業界慣行の見直しでは、「本業支援や政策株式、出向に関する協会ガイドラインを策定」を打ち出すとともに、業務品質の向上については、「第三者の視点を入れた業界共通の業務品質評価基準を策定」し「策定した基準を実効的に適用できる体制や運用についても検討していく」としている。その際損保代理店の規模やチャネルの多様な実態を十分考慮しながら実効的・持続的なものとなるよう検討する、として、大規模代理店にとどまらず広く代理店全体を対象とした基準とすることになるもよう。同時に、保険募集人の業務品質向上に向けて現行の教育内容や資格制度の改善、充実の方策についても検討するとしている。

 また有識者会議報告書では不祥事の再発を防ぐため、大規模な保険代理店への実効的な監督を確保する自主規制機関の設立を損保業界に検討するよう求めているが、同協会のスタンスとしては、自主規制機関の設立については「選択肢の一つ」とし、法改正を伴うだけに、金融審議会の場に移し、実効性や強制力の有無といった論点を整理した上で議論を進める、としている。

 同協会は、これまで再発防止に向け、業界全体で正すべき点を明らかにし、協会ガイドラインの改定や会員会社及び代理店への啓発を強化することなどにより、会員会社の取組みを支援してきた。会員の損保各社もこれらの当協会の取組みも活用しながら、意識や行動の変革、ガバナンス体制や各種制度の見直し等、鋭意改善に努めている。お客さまからの信頼回復に向けた諸課題について業界全体で取組みを推進する「業務抜本改革推進プロジェクトチーム」を設置し、本業支援等のあり方や、健全な競争環境をより早期に整備するための取組みなどの方向性について検討を重ねてきた。

 本年度においても、引き続き同プロジェクトチームが中心となり、旧来の業界慣行を抜本的に見直す業界全体の取組みをより一層加速させ、これまで検討してきた信頼回復に向けた諸課題に対する取組みを具体化していく。

 6月25日には、金融庁における「損害保険業の構造的課題と競争のあり方に関する有識者会議」の報告書が公表された。https://www.fsa.go.jp/singi/sonpo/houkokusyo.pdf

 この報告書には、業界内の構造的課題の解消や健全な競争の実現に向けた制度の在り方について、第三者による代理店の評価、自主規制機関の検討、代理店への過度な便宜供与の制限、企業代理店の自立度向上など重要な方向性が示されている(報告書の概要を参照)https://www.fsa.go.jp/singi/sonpo/gaiyou.pdf)

 同協会としてもこれら有識者から指摘された様々な意見を基に深度ある検討を重ねながら、より実効性のある取組みへと繋げていく、とするとともに、具体的な取り組みとしては、以下の6点を挙げている。

1)健全な競争環境の実現

 健全な競争環境を実現するとともに、顧客の適切な商品選択の機会を確保するために各種協会ガイドラインの策定に着手する。協会ガイドラインは会員会社が自主的に取り組むための基本的な考え方を示すものだ。具体的な策定対象の一例として、本業支援や政策株式、出向に関する協会ガイドラインを策定する。また、実効性を確保していくために、会員各社の取組状況をフォローアップするとともに、協会ガイドラインの内容を随時見直していく。2)保険代理店・募集人の業務品質の向上

 保険代理店における適切な保険募集管理態勢を確保するために、第三者の視点を入れた業界共通の業務品質評価基準を策定する。併せて、策定した基準を実効的に適用できる体制や運用についても検討していく。損保代理店は全国に約15万店あり、さらに規模やチャネルが多岐にわたっているため、そういった実態を十分に考慮しながら実効的かつ持続的なものとなるように検討していく必要がある。

 また、保険募集人の業務品質向上に向けて教育内容や資格制度の改善、充実の方策についても検討を進めていく。

3) 企業向け保険やリスクマネジメントの理解浸透

 会員各社からは、「顧客企業に対して、保険本来の価値やリスクマネジメント関連情報を十分に提供できていなかった」という反省の声が上がってきている。これを踏まえ、保険やリスクマネジメントに関する情報を業界全体でしっかりと提供していく態勢を整備するために、顧客企業の理解をサポートする業界共通ツールの作成や企業向けのリスクマネジメント力向上に資するセミナーを開催する。

4)不正請求への対策強化

 一件一件の適正な保険金支払の積み重ねが、健全な保険制度の根幹を支えており、この根幹を揺るがす不正な保険金請求事案への対策は、業界全体で不断に取り組むべき重要な課題だ。引き続きお客さまに安心して保険金を請求していただけるよう、「ビッグモーター社で見られた不正請求の類型・手口に関するアジャスター向け研修」を実施し、業界内の不正請求対策を強化する。また、「修理工場向け説明ツール」を作成し、国交省ガイドラインを踏まえた損傷車両の画像を記録することを支援するなど、自動車修理の透明性を高める取組みを実施していく。

5) コンプライアンスの更なる強化

 保険会社社員や代理店の独占禁止法に関する知識と意識が十分でなかったことも保険料調整行為の問題における原因の一つだ。コンプライアンスの徹底はあらゆる業務において不可欠であり、不断の取組みが必要だ。会員会社向けの「独占禁止法コンプライアンス・セミナー」の定期開催や、公益財団法人損害保険事業総合研究所の本科講座において独占禁止法をテーマに特別講義を実施する等、業界内のコンプライアンス教育を強化していく。

6)各取組みのフォローアップ・好取組事例の共有

 業界全体の業務品質を継続的に向上させていくために、アンケート調査や取組状況のモニタリングなどを通じて会員各社における取組みの浸透状況をフォローアップするとともに、好取組事例を共有することなどにより会員各社のさらなる取組みを支援していく。

 上記の取組みに加えて、諸外国における保険ブローカーや代理店に対する規制及び企業保険の募集実態等について改めて確認し、今後の取組みの参考とするために、当協会から公益財団法人損害保険事業総合研究所に対して調査・研究を委託するなど、各種課題の解決に向けて取り組んでいく。

 今回の有識者会議報告書を受けての損保協会の具体的取り組みを見ると、有識者会議での大規模代理店との関係の適正化のための再発防止策にとどまらず、多種多様な損保代理店に対する業務品質向上に向けた第三者視点を入れた業務品質基準作りの策定が打ち出されたことで、損保代理店全体を対象とした業界共通の業務品質基準が求められることになる。このことは、チャネル特性や規模の違いはあろうが、それを踏まえつつもプロフェッショナリズムの如何を基準に、代理店の経営や募集人につき、共通に高度な品質が問われていくことになる。そのためにも今後プロ代理店にとっても自分事として、客観性を備えた業務品質向上や態勢整備を整えていくことが必須になることは間違いない。

 (中)

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