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保険代理店の「DXミライ展望」(1)なぜ今、保険代理店にDXが求められるのか?

2025年02月18日

◇はじめに

 保険業界におけるDX(デジタルトランスフォーメーション)は、消費者によるデジタルでの情報収集やレコメンド(推奨)意見の受け入れやネット上での購買行動が当たり前になった現在では、もはや避けて通れないテーマです。しかし、多くの保険代理店が、知識が足りず「何から手をつければよいのか分からない」「DXの必要性を感じつつも、具体的な進め方が分からない」と悩んでいます。

私は生命保険会社で長くデジタル領域を担当し、銀行窓販・郵政窓販の立ち上げや保険ショップの支援、大手保険ショップのデジタルアドバイザーを経験してきました。

本連載では、その知見を活かし、代理店の皆様がDXを実現するための具体的なヒントをお伝えします。また、保険代理店業界におけるデジタル・トランスフォーメーション(DX)の現状と課題、成功事例から将来展望までを全5回にわたり考察します。

◇保険代理店とDX

 保険代理店を取り巻く事業環境は近年大きく変化しています。デジタル化で顧客が多くの商品やサービスをネット上で手に入れることができるようになったことが顧客のニーズの多様化をもたらしました。

 このようなデジタル化の波が押し寄せ、保険業界では従来の対面中心の保険営業や紙ベースの保険加入、支払い請求手続きだけでは十分に対応できなくなってきました。特にコロナ禍以降、非対面での手続きやオンライン相談へのニーズが一気に高まり、保険の申し込みもネット経由で行いたいという消費者が増えています。

 ネットを使い慣れた若い世代ほどSNSなどのデジタルツールを使って情報収集し、オンラインで完結するサービスを好む傾向があり、こうした消費者行動の変化に応えるためにDXが不可欠となっています。

 たとえば、20代・30代の顧客をターゲットにする場合は、InstagramやTikTokを活用した情報発信を強化したり、保険の基本知識やライフイベントに応じた保障の選び方を短い動画で分かりやすく説明し、興味を持ったユーザーがそのままチャット機能を使って相談できる仕組みを導入したりするなどが考えられます。

 また、YouTubeで「30秒で分かる保険シリーズ」といった短尺動画を配信し、複雑な保険商品を分かりやすく解説する取り組みも有効でしょう。動画の概要欄には、オンライン相談の予約リンクを設置し、視聴者がスムーズに次のステップへ進めるようにするとより良いでしょう。

 従来の訪問営業や電話勧誘ではリーチしづらかった層に対して、デジタルツールを活用することで新しい顧客層の開拓が可能となっています。今後、保険代理店にとってSNSや動画を活用したマーケティングは、DX戦略の重要な要素の一つとなるはずです。

◇競争環境の激化

 また、競争環境の激化もDX推進を後押ししています。ネット専用保険会社や大手保険会社の子会社などの保険各社が直販のオンライン募集チャネルを強化したり、InsurTech(インシュアテック)企業が台頭したりする中で、代理店もデジタル技術を活用したサービス向上が求められています。

 ある大手保険会社では、顧客が手続きを選択できるようタブレットやオンライン会議、QRコードを活用した契約手続きを推進する動きが出ています。ネットが浸透した現在、手書きの申込書やメールだけでのやりとりは、もはやベストプラクティスとは言えず、顧客管理の徹底や継続的なフォローのためにもCRM(顧客管理システム)の導入が欠かせない時代となりました。 DXは顧客対応力の強化だけでなく、生産年齢人口の減少による人手不足の解消や業務効率向上にも直結するため、その重要性は増す一方です。

◇国からの要請(2025年の崖問題)

 国からの要請も背景にあります。経済産業省はデジタル化を含む業務改革を各業界に推進要請しており、既存システム刷新の必要性(2025年の崖問題)と、業務効率化や新規ビジネスのためのシステムを導入することを主張しています。

 これは、古いビジネスモデルでは生き残れず、デジタルを活用して高い顧客価値を提供してほしいという意図です。具体的には、商品ポートフォリオの変革や若年層顧客の開拓、次世代の募集人の採用・育成などについてもデジタルを活用し、業務効率化や新しいやり方を導入すべきと考えています。

◇保険代理店のDX現状

 では、保険代理店のDXはどの程度進んでいるのでしょうか。IPAのDX白書2023によると、金融・保険業界で「DXに取り組んでいる」と回答した企業は約44.7%にのぼり、全産業平均(20%強)と比べても高い水準にあります。しかし、この数字の多くは保険会社本体の取り組みを含んでおり、代理店単独で見ると、事業規模によって取り組みには差があると思います。

 大手保険代理店(大規模な乗合代理店や来店型ショップチェーンなど)では、比較的DXが進んでいる例が見られます。たとえば、私が助言をしていた全国展開の来店型保険ショップでは、顧客管理にクラウド型の管理システムを導入し、複数保険会社の商品を横断的に比較提案できるタブレットツールを活用しています。

 また、こちらも私が助言していた保険ショップ大手では、独自開発の保険分析システムや商品検索・比較システムを導入し、店舗でもオンラインでも一貫したサービス提供を行い、顧客との商談履歴や契約内容をデータベース化して分析することで、ニーズに合った商品提案やフォローを可能にしています。大手代理店ではこのようにシステム投資やデータ活用に積極的であり、DXによって他社との差別化や業績拡大を図る動きが旺盛です。

◇中小規模代理店の取り組み

 一方で、中小規模の保険代理店では、DXの取り組みに差があるのが現状です。人手や資金に限りがあるため、大掛かりなシステム導入に踏み切れない、あるいはノウハウ不足で何から手を付けてよいか分からないという声も聞かれます。

 たとえば、従業員数名規模の代理店では、いまだに顧客情報をエクセルや紙ファイルで管理し、見積書や申込書も手作業で作成しているケースが少なくありません。こうした代理店にとって、DXは「どこから始めればいいのか分からない」という課題となっており、現状ではメールやウェブ会議の活用といった部分的なデジタル化に留まっている例もあります。

 しかし近年、中小向けにも使いやすいクラウド型代理店システムや安価なITツールが登場し、徐々にではありますが導入が進み始めています。

◇DX推進における主な課題

 DXを推進する上で、人的・文化的な課題も無視できません。保険代理店業界は長年の対面営業の文化が根強く、ベテラン社員ほど「紙の方が安心」「従来型のやり方で十分」と感じる傾向が指摘されています。また、DXに必要なITスキルを持つ人材の確保・育成も大きな課題です。

◇まとめ

 以上のように、保険代理店のDXは大手を中心に進みつつも、業界全体では取り組み状況に差があるのが現状です。まずはできるところから業務のデジタル化を進め、顧客にとって価値のあるサービスを提供できる基盤を作ることが重要でしょう。

 次回は、DX推進の具体的な領域として業務効率化に焦点を当て、その成功事例と課題を見ていきます。

(住友生命保険相互会社 エグゼクティブ・フェローデジタル共創オフィサー デジタル&データ本部 事務局長)

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