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保険代理店の「DXミライ展望」(3)顧客対応のデジタル化~非対面も含めたオムニチャネルと顧客体験~

2025年03月18日

◇はじめに

 本連載では、保険代理店業界におけるデジタル・トランスフォーメーション(DX)の現状と課題、成功事例から将来展望までを全5回にわたり考察します。

 私は生命保険会社で長くデジタル領域を担当し、銀行窓販・郵政窓販の立ち上げや保険ショップの支援、大手保険ショップのデジタルアドバイザーを経験してきました。本連載では、その知見を活かし、代理店の皆様がDXを実現するための具体的なヒントをお伝えします。

 第3回では、保険代理店における顧客対応のデジタル化について解説します。デジタル化によって顧客接点を多様化することで、利便性向上と顧客満足度アップ、新規顧客の獲得につなげることが実現できる可能性があります。 一方で、デジタルで顧客に寄り添う方法、対面とのバランスも考える必要があります。今回は、顧客接点でのデジタル活用のポイントを考えます。

◇顧客接点のデジタル化

 現代の消費者は、金融サービスを含む多くの手続きをオンラインで完結したいと考えています。特に若年層はスマートフォンで情報収集や契約を済ませることが多くなり、保険もそれに当てはまります。PayPayで加入できる弊社グループが提供する「熱中症お見舞い金保険」や「インフルエンザお見舞い金保険」などはその加入手続きの早さ、簡単さが支持されています。

 共働き世帯の増加やライフスタイルの多様化により、「営業時間中に代理店へ出向くことが難しい」、「対面よりもオンラインでの相談を希望する」といったニーズも顕著になりました。

 これらの変化を後押ししたのが2020年以降のコロナ禍でした。対面営業が制限されたことで多くの保険代理店が非対面対応の必要性を認識し、顧客接点のデジタル化が進み、柔軟なコミュニケーション手段が広がりました。これがデジタル化の背景です。

◇顧客対応デジタル化の取り組み

 顧客対応のデジタル化には、いくつかの方法があります。

1)オムニチャネル対応(デジタル接点マルチ化)

 顧客が希望する方法で保険代理店にコンタクトできるように、複数の接点チャネルを提供します。たとえば、初回の問い合わせはチャットボットで対応、相談はオンライン面談(Zoom・Teamsなど)、契約手続きは電子手続きで完結させるなど一貫したデジタル体験を提供すればスムーズな顧客対応が可能になります。対応履歴を統合管理し、どのチャネルからでも過去のやり取りを参照できるようにすれば顧客の満足度も高まります。

2)AIチャットボットの活用(デジタルオンライン問合せ)

 WebサイトやLINE上にAIチャットボットを設置し、よくある質問に24時間自動応答します。たとえば、住所変更の手続き方法や保険証券の再発行方法のような問い合わせに即時対応できることで、顧客の待ち時間の短縮になる上、スタッフの負担軽減にもつながります。

3)オンライン面談・相談

 顧客の利便性向上のためにオンライン面談の導入も有効です。自宅や職場から気軽に相談可能で、画面共有で資料を提示しながら説明し、チャット機能でリンクを送付するなどのデジタル化をすれば対面と遜色ない説明ができるため、来店が難しい顧客にも対応しやすくなります。

4)デジタル契約・デジタルでの署名

 契約手続きをデジタル化することで、書類の郵送や押印の手間を削減できます。たとえば、スマホでQRコードを読み取って契約確認してもらったり、電子署名システムを活用し、ペーパーレスで契約締結してもらうなどです。生命保険各社も電子契約対応を進めており、代理店経由でもスムーズな契約手続きが可能になっています。

5)顧客ポータル・アプリの提供

 契約者専用のWebポータルやスマホアプリを通じて、契約内容の確認や住所変更手続きがオンラインで完結できる仕組みも有効です。たとえば、「契約内容の一覧表示」、「保障内容の見直し提案」、「保険更新手続きのリマインド通知」など、全国チェーンの大手代理店では独自アプリを開発し、複数の保険契約を一括管理できる機能を提供しています。

6)SNS活用と情報発信

 FacebookやX(旧Twitter)、Instagramなどで情報発信を行い、顧客との接点を強化している事例もあります。たとえば、保険の豆知識やお役立ち情報を定期投稿する、コメントやメッセージで問い合わせを受付する、SNS広告で新規顧客のリード獲得する、などです。特に若年層に対しては、SNSを活用したアプローチが有効です。

7)デジタルアンケートとNPS(ネット・プロモーター・スコア)

 契約後や相談後にオンラインアンケートを実施し、顧客満足度を測定することも有効です。たとえば、満足度の高い顧客には口コミ紹介を促す、顧客の不満を分析し、サービス改善に活用するなど、顧客の声をデータとして蓄積し、継続的な品質向上につなげることが重要です。

◇デジタル化でどのような顧客体験となるか

 オムニチャネル対応を強化することで、業務効率化と顧客満足度の向上が期待できます。たとえば、電話・メール・チャット・オンライン面談・電子契約などを統合した顧客対応システムを導入することで、より柔軟な対応が可能になるでしょう。

 問い合わせを電話に依存している代理店では、営業時間外の対応が難しく、契約手続きも紙の書類を中心としているため、業務負担が大きくなりがちです。これを改善するために、LINEの公式アカウントを活用した自動応答チャットボットを導入、問い合わせに即時対応できるようにします。

 また、WebサイトにAIチャットボットを設置すれば、FAQや契約内容の確認を24時間対応にすることも可能でしょう。問い合わせ対応の一部を自動化し、業務の負担を軽減できる可能性が高まります。

 対面相談を希望する顧客には、オンライン面談を推奨し、ZoomやTeamsなどのツールを活用することで、遠方の顧客にも柔軟に対応できるようになり、地方の顧客や共働き世帯など、従来アプローチが難しかった層へ対応でき、新規契約の増加につながる可能性があります。

 デジタル契約を導入することで、契約書の郵送や押印の手間を削減し、契約完了までの所要時間を短縮することも考えられます。ペーパーレス化によるコスト削減や、契約手続きの迅速化により、顧客の利便性向上につながるでしょう。

 オムニチャネル対応を強化することで、顧客対応のスピードと満足度を向上させながら、社内業務の効率化を同時に実現できる可能性があるのです。

◇顧客対応デジタル化の課題と対策

 顧客対応のデジタル化には、多くのメリットがありますが、課題もあります。

1)高齢者やデジタル不得意層

 全ての顧客がデジタルを活用できるわけではありません。デジタル対応を推進しつつ、対面相談の選択肢も残したり、高齢者向けに操作ガイドを用意することも必要です。

2)人間味・信頼感

 非対面では人柄が伝わりにくい懸念があります。

 チャットでも温かみのある言葉遣いを意識したり、定期的に電話やハガキでのフォローアップを検討することが必要です。

◇まとめ

 顧客対応のデジタルは、単なる業務効率化ではなく、顧客体験の向上を目的とした戦略的な取り組みです。デジタルを活用しつつ、対面とのハイブリッド対応を柔軟に行うことで、より多くの顧客に寄り添うことができます。 次回の第4回では、このような顧客基盤を活かした営業・マーケティングDXについて解説します。

(住友生命保険相互会社 エグゼクティブ・フェローデジタル共創オフィサー デジタル&データ本部 事務局長)

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