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保険代理店の「DXミライ展望」(4)営業・マーケティングのDX~新規顧客開拓やマーケティングにデジタルの波~
2025年04月01日
【DX】
◇はじめに 本連載では、保険代理店業界におけるデジタル・トランスフォーメーション(DX)の現状と課題、成功事例から将来展望までを全5回にわたり考察します。 私は生命保険会社で長くデジタル領域を担当し、銀行窓販・郵政窓販の立ち上げや保険ショップの支援、大手保険ショップのデジタルアドバイザーを経験してきました。本連載では、その知見を活かし、代理店の皆様がDXを実現するための具体的なヒントをお伝えします。 第4回では、保険代理店の営業・マーケティング分野におけるDX推進について解説します。新規顧客の開拓やマーケティング手法にもデジタルの波が押し寄せており、効率的に見込み客と出会い、契約につなげるために各社工夫を凝らしています。大手から中小まで、デジタルを活用した営業支援の事例や、データに基づくマーケティングの展開、そしてそれらに伴う課題について見ていきましょう。 ◇保険営業におけるデジタル活用 保険の営業・マーケティングでは、従来は人による紹介や飛び込み訪問、セミナー開催などアナログな手法が中心でしたが、近年では、Webを通じた見込み客の獲得や、既存顧客データの分析によるクロスセル提案など、データドリブンな手法が注目されています。 DXによって営業プロセスを変革する狙いは以下のような点にあります。 1)見込み客の効率的獲得 インターネット広告やSNS、オウンドメディア(自社制作コンテンツ)を通じて、接点のなかった層にもアプローチし、保険に関心のある見込み客を集めます。 2)提案精度の向上 顧客のライフイベントや契約状況を分析し、一人ひとりに最適な商品を適切なタイミングで提案するなど、蓄積したデータを営業活動に活かします。 3)営業プロセスの効率化 CRMやSFA(営業支援システム)を活用し、見込み客のフォローを可視化・自動化することで少人数でも多くの案件を管理できるようになります。 4)ブランド認知 ブログやSNSで有益な情報発信を行い、専門家としての信頼を高めることで、「相談してみたい」と思ってもらえるファン層をつくることも大切です。 ◇デジタルマーケティング事例 大手企業の取り組みでは、保険会社や大手代理店が専門チームを組んでデジタルマーケティングを展開するケースがあります。 たとえば、ある保険会社系代理店ではデジタルマーケティング部門が保険情報サイトを運営して集客を行っています。サイト来訪者に対して資料請求や相談予約につなげる導線を構築し、得たコンタクト情報を営業担当に引き継いでフォローする体制です。 この会社ではリスティング広告やSNS広告にも投資し、「医療保険 見直し」、「自動車保険 おすすめ」といったキーワードで検索したユーザーを自社ページに誘導することで、潜在顧客層を幅広く取り込んでいます。 中小規模の代理店でも、低コストでデジタルマーケティングを活用できます。 たとえば地方で展開する独立系代理店D社では、社長自身がブログやYouTubeで保険の役立つ情報発信を継続しています。保険の選び方や事故時の対応ポイントなど実務に基づくコンテンツが評判を呼び、チャンネル登録者やブログ読者が増加。それらを見た遠方の視聴者からオンライン相談の問い合わせが来るケースがあるということです。 ◇データ活用と営業支援 データの活用が営業成績向上の鍵を握るので、顧客や契約に関するデータを分析して営業活動にフィードバックすることが重要です。 1)クロスセル・アップセルに活用 自社の顧客データベースを分析し、たとえば「住宅ローンを利用中で火災保険には入っているがお客様自身の生命保険加入が十分でない層」などを抽出し、適切なタイミングでライフプラン相談を提案する、といったクロスセル施策に繋げます。 大手保険や代理店ではデータサイエンス部門のメンバーがデータ分析モデルを構築し、解約リスクの高い契約や追加提案に反応しそうな顧客をスコアリングして営業現場に提供している例もあります。 2)顧客セグメンテーション 顧客を年齢層・家族構成・職業などの属性や、ネット接触度合い、保険加入状況などからセグメント化し、それぞれに響くマーケティングメッセージを策定します。 たとえば、若年単身者にはネット完結型商品の案内、中堅ファミリー層には保障の見直し提案、高齢富裕層には相続対策保険のセミナー案内、といった具合に、セグメント毎に最適なアプローチを取ります。 3)営業活動の見える化 SFAツールを使って、各営業担当者の商談状況やコンタクト履歴を一元管理することで、進捗漏れや二重対応を防ぐだけでなく、どのような対応をした時に契約率が高まるかといった知見共有も容易になります。 大手保険や代理店では営業支援システム上で上司や同僚と案件情報を共有し、AIが提案資料やトークスクリプトのベストプラクティスを提示してくれるような高度な仕組みを導入しているところもあります。 4)マーケティングオートメーション(MA)の活用 資料請求者や過去の相談者に対し、メールで定期フォローを自動配信するなど、MAツールを用いてフォローアップを効率化します。一定期間反応のない見込み客にも誕生日や年末調整シーズンに合わせてリマインドを送るなどして関係を維持し、将来的な契約につなげる試みです。 ◇営業DXの効果と課題 デジタル活用により、従来アプローチできなかった層からの契約獲得が増えたり、顧客一人当たり契約件数の増加、営業効率(成約件数/提案件数)の向上といった成果が期待できます。 オンライン経由の集客は、紹介や飛び込みに頼るよりも安定的にリードを得られる可能性があり、営業担当者の心理的負担軽減にもつながります。 また、データ分析に基づく提案はお客様にとっても「自分の状況をよく理解して提案してくれる」という印象を与え、満足度向上と紹介増加の好循環を生むことも期待できます。 一方で課題もあります。まず、デジタルマーケティングは結果が出るまで試行錯誤が必要であり、特に中小代理店では途中で「効果が感じられない」と挫折してしまうケースもあります。 ウェブ広告やSEОは専門知識が求められるため、外部の専門家の協力を得るか人材育成が必要です。また、オンラインでリードを獲得できても、その後のフォローを怠れば契約には至りません。 デジタルと人間の対応を如何に組み合わせるかが成功の分かれ目となります。 ◇まとめ デジタルやデータを駆使した営業・マーケティングは、保険代理店が成長していく上で避けて通れないテーマです。 大規模資本がなくても、創意工夫と適切なツール活用により一定の成果を上げている中小代理店も存在します。 重要なのは顧客にアプローチする積極性と、効果をデータで測定・改善していくサイクルです。是非やりやすいことから試すことが必要です。 最終回では、DXを踏まえた保険代理店事業の将来展望について考えます。 (住友生命保険相互会社 エグゼクティブ・フェローデジタル共創オフィサー デジタル&データ本部 事務局長) |