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生命保険ビジネスの「みらい」展望(10・最終回)2030年、生命保険はどう変わるのか―新たな価値の創造
2025年04月15日
【DX】
筆者は住友生命保険相互会社でデジタルとデータを活用しながら、企業や自治体との共創を通じて新しい顧客価値を創造する仕事を担当しています。 本連載では、生命保険会社の新たな顧客価値創造領域である「非保険領域」をテーマに、これまで9回にわたり生命保険ビジネスの変革を様々な角度から考察してきました。 最終回となる今回は、これまでの議論を踏まえながら、2030年に向けた生命保険業界の未来像を描いていきたいと思います。 筆者は一緒に仕事をしている入社10年未満の複数の若手職員とよく話をします。その中で、以下のような話をします。 「保険会社の存在意義って何でしょうか。単にリスクに備えるだけでなく、人々の人生をより豊かにすることだと思います。」 「これからの保険は、誰にでも同じものを提供するのではなく、保険と関連するサービスを一括提供し、一人ひとりの人生に寄り添う存在になるべきではないでしょうか。」 この話は、保険業界とお客さまの未来を考える上での本質と言えると思います。2030年に向け、社会は人口構造の変化や働き方の多様化、さらにはテクノロジーの進化による生活様式の変化といった大きな転換点を迎えるでしょう。その中でも注目すべきは、単身世帯の増加や少子高齢化の進展です。これらの社会的変化は、保険業界に対して新しい課題と機会をもたらすのです。 しかし、その中でも変わらないものがあります。それは「人々のWellbeing(よりよく生きる)」という本質的な使命です。保険業界は常に「もしも」の時の備えとして、お客さまの不安を解消し、未来に希望をもたらす存在であり続けなければなりません。この価値提供の重要性は、さらに高まっていくと考えます。 ◇これからの保険ビジネス 2030年の保険業界を形作る重要な方向性として、筆者は5つの可能性を挙げます。 1.予防と保障の融合 従来の保険は、発生したリスクに対する「事後的な保障」が中心でした。しかし、2030年には「予防」に重点を置いた保険モデルが進む可能性があります。 例えば、現在、筆者はウェアラブルデバイスやIoTセンサーを活用し、個々の健康データをリアルタイムで収集・解析することで、健康増進や疾病予防のためのプログラムを提供する仕事に携わっていますが、この流れをさらに進めていければと思います。 筆者の勤務する生命保険会社も含め、健康増進型保険はすでにいくつかの保険会社で導入されていますが、2030年にはさらに進化し、顧客のライフスタイルや健康状態に合わせたきめ細やかなサービスが提供されるようになるでしょう。このモデルは、お客さまの健康維持をサポートするだけでなく、生命保険会社にとってもデータ収集などによる経営効率の向上など、いくつものメリットをもたらします。 2.パーソナライズの進化 2030年の保険商品は、個人に最適化されたものになる可能性があります。ライフスタイル、健康状態、人生の目標に応じて保障内容を柔軟に変化させる保険が導入されるかもしれません。 例えば、特定の健康指標が改善した場合、保険料が割引されるといったインセンティブ設計が考えられます。実現に課題はありますが、チャレンジする生命保険会社も出てくる可能性があります。 AIとビッグデータ解析の進化により、お客さまのニーズを詳細に把握し、それに基づいたサービス提案が可能になります。このようなパーソナライズされた保険は、顧客満足度を大幅に向上させるでしょう。 3.エコシステムの形成 生命保険会社が「プラットフォーマー」としての役割を果たす未来も想定されます。医療、介護、資産運用、日常生活支援など、様々なサービスを横断的に連携するエコシステムを構築することで、お客さまに良い体験を提供するのです。 例えば、健康診断の結果が自動的に保険サービスに反映される仕組みや、介護サービス利用者の生活データが保険給付に活用されるといったサービスが考えられます。このようなエコシステムのコアに生命保険会社が位置することで、新たな価値を生み出すことが期待されます。 4. 地域社会との共生 少子高齢化が進む中、地域社会の活性化に貢献することも保険会社の重要な役割となるかもしれません。自治体や地域企業との協力を通じて、健康増進プログラムや地域経済の活性化プロジェクトを展開することで、地域社会全体の持続可能性を支える取り組みが進めば良いと思います。 5.新しい保障ニーズへの対応 気候変動による熱中症増加など身体的負担、ストレスによる不調、人生 100年時代における経済的リスクといった新たな課題に対応する保険商品が求められるでしょう。これらの新しいリスクに対応することで、保険会社は顧客にとっての信頼できるパートナーとしての役割を果たし続けなければなりません。 ◇変革を支えるテクノロジー これらの変化を支えるのが、テクノロジーの進化です。パーソナライズされたデータ分析を活用することで、個々の顧客に最適な保障プランを提案したり、生成AIによる高度なカスタマーサービスを実現したりする技術が、保険契約やサービス提供の迅速化を可能にし、顧客の利便性を大幅に向上させるでしょう。 例えば、個人の健康データやライフスタイル情報をリアルタイムで解析し、その人に合わせた予防プログラムや保障内容を提示することが現実化しています。しかし、テクノロジーはあくまでも手段に過ぎません。その活用の仕方が重要です。顧客にとっての利便性や価値を最大化するために、パーソナライズとAIをどのように融合して提供するのかが、保険会社の成長を左右します。 ◇最後に 10回の連載を通じて、筆者が強く感じたのは、変革の主役は生命保険会社の職員一人ひとりだということです。未来は誰かが用意してくれるものではありません。職員自身が目指すべき未来を描き、それに向けて行動を起こしていく。その主体性が、これからの生命保険ビジネスには必要です。 2030年、生命保険業界は間違いなく今とは異なる姿になっていると思いますし、そうならなければなりません。その中核にあるべきものは「人々の幸せな人生に貢献する―Wellbeingの実現―」という使命なのです。 連載は今回最終回です。ご愛読、ありがとうございました。 (住友生命保険相互会社 エグゼクティブ・フェローデジタル共創オフィサー デジタル&データ本部 事務局長) |