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AIエージェント時代の消費者と保険会社(1)AIエージェントが保険会社と顧客との関係をどう変えていくのか
2025年05月13日
【DX】
生成AIが一気に身近になったいま、いたるところで「AIエージェント」という言葉を耳にすることが増えてきました。しかし一方で、AIエージェントによって私たちの生活や仕事が具体的にどう変わるのかはまだ見えにくく、戸惑いを覚える方は多くいるはずです。 本連載では、そういったモヤモヤを5回にわたって一緒に考えていきたいと思います。 生命保険会社でシステム開発とデジタル戦略を担い、社内で ChatGPT の内製化を主導してきた筆者が、生成AIを活用したアプリ開発の現場経験をもとに、保険業務に当てはめて保険業界がどのように変わるのか、ヒントを具体的にお届けしていきたいと思います。第1回の今回は、AIエージェントが保険会社とお客さまとの関係をどのように変えていくのか、全体像について整理していきます。 ◇そもそもAIエージェントとは? AIエージェントの進化により、保険業界に新たな世界を切り開くミライが予想されています。 AIエージェントは、大量のデータを取り込み「役割を持ち、記憶して、計画を立て、実行する」4つのプロセスをAI自身によって自律的に回していくシステムです。目的達成までの最適な手段をAIエージェント自らが選び、環境の変化に合わせて計画を更新しながら動き続けます。 これにより、私たちのニーズにぴったりのサービスや提案をしてくれると考えられています。 たとえば健康診断の結果数値を読み取り、AIエージェントが「今回の診断結果により血糖値が高めなので、糖尿病リスクに備えた特約を追加しませんか」と即座に提案する。AIエージェントの典型例として想像しやすいミライだと思います。さらには、AIエージェントは日々の行動を見守ることもできますので、日々の脈拍の変化や歩行数などの健康データを集めるウェアラブルデバイスを通じて、AIエージェントはそれぞれのお客さまに合った最適な保険商品を提案・提供できる世界が実現できるでしょう。 今まではお客さまは自分のライフスタイルに合った保険や保障を自ら選ぶ大変さがありましたが、保険会社は信頼性を持ったAIエージェントによりお客さまに完全に合った(超パーソナライズ化された)保険の提供がより早くより確実に可能になるでしょう。本連載では、こうしたAIエージェント時代における保険だけでなく、非保険サービスや関連するサービスの在り方とそのミライの可能性について考察していきます。 ◇AIエージェントによる超パーソナライズ化で保険業界に訪れる“3つのこと” AIエージェントによる超パーソナライズ化は、お客さまの保険選びのプロセスを驚くほどにシンプルかつ簡単にし、従来の保険選びの悩みを解消していくと考えられます。お客さまのニーズに合わせた保険提案、健康データを活用した保険料や保険金の最適化、旅行中の保険加入手続きの自動対応など、ここでは3つの具体例を挙げていきます。 1.お客さまが保険を選択する悩みが消える 保険選びは数多くの会社と数多くのプランから比較し検討する必要があり大変です。AIエージェントはお客さまの保険を選ぶために必要な年齢や家族情報を記憶しているので、その個人データに基づいて最適な保障を自動設計するため、「どの商品をどうやって選べばいいか」を悩むことそのものが省けることで、保険加入のハードルが下がることが期待できます。 2.保障が常にお客さまに合ったものになる スマートウォッチの心拍状態や睡眠データ、受けているストレスが更新されるたびにリスク状態も変わってきますので、保険料や補償内容がリアルタイムに最適化されるようになります。 例えば、ウェアラブル端末により健康行動が常に見守れるようになるため、一定の運動目標を超えて健康体になるための行動をすることにより保険料が割引されたり、または特典(リワード)やご褒美がもらえるなど、健康増進プログラムに保険が組み込まれ「得するから続ける」という新しい保険加入の体験価値を提供できるようになることが考えられます。 保険は“もしも”に備える機能だけでなく、楽しみながら健康になるための毎日の行動を後押しするプログラムの一部への姿を変えていくでしょう。 3.お客さまに発生したリスクも意識せずに補償できる 損害保険においても、例えば旅行はどうでしょう?空港の搭乗ゲートを通過した瞬間、AIエージェントが旅行開始を検知して旅行保険を自動で付帯。旅が終われば自動解約し、一時的に上がるリスクに自動的に備えることも考えられます。それだけでなく、万が一、旅行中にケガをすればAIエージェントが空いている最寄りの病院を探し手配し、保険金の請求書類まで用意し、保険会社に自動で請求することもできるでしょう。新しく発生したリスクや一時的に発生したリスクに対しお客さまが意識することなく補償ができるようなミライになるでしょう。 ◇AIエージェント時代に人は不要になるのか? AIエージェントが高度化していくと「営業職員や保険代理店は要らなくなるのでは?」という疑問が浮かびます。結論から言えば、お客さまが人である以上、より人にしかできない役割で必要になってくるでしょう。 保険の見積もり作成や書類チェックといった定型的な業務は保険業務を行うAIエージェントが替わって作業をしてくれますが、ワクワクするようなライフプランニングを一緒に考えてくれる、子供が産まれた時に「おめでとう!」と心の底から喜んでくれる、病気に罹った時に本気で心配してくれたりと、文字だけのコミュニケーションでなく、表情や共感、身振り手振りなどを含めた人と人のコミュニケーションは今まで以上に価値が出てくるのでしょう。 これだけAIが進化して、人と見分けることが難しい写真や動画が作れるようにはなりましたが、やはり人が作ったコンテンツに魅力を感じます。 AIエージェントと人の役割を分けるキーワードは「判断基準を数値化できるかどうか」だと思います。 数値化できる領域(お客さまの必要とする保障額の算出など)はAIが高速化し、数値化できない感性による領域(お客さまの不安を汲み取る)は人がより深く関与する。 保険営業は、AIエージェントが提示したプランを読み解き、お客さまが納得・安心できるよう橋渡しをする“翻訳者”として進化していくと思います。 ◇まとめと次回予告 AIエージェントは「役割を持ち、記憶して、計画を立て、実行する」自律システムとして、加入手続きから健康づくりまでトータルで見守ります。よりパーソナライズ化された保障により、お客さまに過不足なく完全に合った保険をリアルタイムに提供し、日常の安心インフラへとさらなる進化を遂げる可能性を持っています。 次回は、より具体的に保険募集に焦点を当てて、AIエージェントがどこまで何ができるのか、今の実務から一緒に検証したいと思います。どうぞお楽しみに。 (大手生命保険会社勤務) |