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GuardTech~協業・共創の現場から(38)玉島信金の「ソーシャルキャピタル構築」の取り組みに学ぶ

2025年06月17日

 6月12日付の日経電子版に掲載された、岡山県倉敷市に本店を置く玉島信用金庫(玉島信金)の宅和博彦理事長のインタビュー記事「ノルマ廃止、人間関係こそ価値/収益力も向上」を読みました。

 注目すべきは、同信金が営業ノルマを廃止し、それを機に翌年度から収益力がV字回復したという点です。なぜ「ノルマの廃止」が収益力の向上につながったのかーこの記事は、その背景に迫っています。

 玉島信金は、2018年に策定した長期経営ビジョンで「お客さまの成長と夢づくりの支援」を存在意義に定め、「課題解決に向き合うには、ノルマがあってはならない」という方針のもと、すべての営業ノルマを撤廃しました。現在は、支店間で預金額や融資額を競うのではなく、「子ども食堂の支援」や「保護犬・保護猫の譲渡会」といった、地域課題の解決力を競い合う文化が根づいています。

 もともと同信金では、地域課題の解決に関する取り組みを個別に行っていましたが、営業ノルマの廃止を機に「地域で支え合う経済を、長い目でつくる」ことを戦略の核とし、「ソーシャルキャピタル(社会関係資本)の構築」をコア業務に据えました。その姿勢を明確に打ち出すため、業務企画部内に「ソーシャルキャピタル課」を新設し、地域との関わりを深めるハブとして機能させています。

 具体的な取り組みの一つが、企業間マッチングを支援する独自システム「T.A.S.K Share(タスクシェア)」です。これは、取引先企業の持つ技術や知見(Technology, Ability, Skill, Knowledge)を登録し、課題を抱える企業とつなぐ仕組みで、営業職員がタブレット端末を使ってその場でマッチング提案まで行えるようになっています。

 そもそもソーシャルキャピタルとは、人と人、組織と組織の間に存在する「信頼」「ネットワーク」「互酬性」といった社会的なつながりを意味します。これが充実している地域では、信頼の蓄積により協調行動が促進され、課題解決がスムーズになります。また、ネットワークを通じた情報・資源の共有によって、経済的価値を超えた地域の新たな価値が生み出され、コミュニティの包摂性と持続性が高まります。

 経済資本(お金)や人的資本(ノウハウ)だけでなく、金融機関がこの「社会関係資本」を意識的に育てることは、「地域の共通利益」と「金融の役割」とを統合する新しい金融モデルにつながります。企業の成長や存続を支えることで、地域全体の価値創出が結果的に金融機関自身の収益にも還元されるー欧州で広がる「ソーシャルバンキング」の潮流とも呼応する動きであり、玉島信金もその流れを先取りしています。

 その効果は実際に地域に浸透しています。2023年、信金中央金庫のシンクタンクである信金中金 地域・中小企業研究所が実施したアンケートによると、玉島信金との関係が「強くなった」と答えた取引先企業ほど、他企業との関係性も「深まっている」ことが明らかになりました。

 地方銀行や信用金庫、信用組合といったリージョナルバンクは、超低金利、人口減少、地域経済の縮小、さらにはフィンテックの進展といった大きな環境変化に直面しています。

 こうした中、「預金と融資」にとどまらず、「地域共創サービス」へと役割を広げることが、持続可能なモデルとして注目されているのです。玉島信金の事例はその成功例の一つといえるでしょう。

 同様の構造課題を抱える保険業界ー特に、地域のプロ保険代理店や保険会社の支社・支店にとっても、地域との関係性を深める「ソーシャルキャピタル構築」は、今後の事業戦略において参考となる取り組みではないでしょうか。

(GuardTech検討コミュニティ代表)https://note.com/guardtech2024

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