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め・て・みみ~相次ぐ保険関連法規の改正と代理店実務への影響

2025年06月17日
【ニュース】

◇相次ぐ新たなルールや制度の整備

 有識者会議や損保問題ワーキンググループ論議を経て、保険会社や販売代理店に法令順守の体制整備を義務化することなどを盛り込んだ保険業法の改正案については3月7日に閣議決定を経て国会に提出され、すでに5月15日には衆院本会議を通過し、5月30日には参議院本会議でも通過し、成立した。それに先立つ5月12日には、代理店に大きな実務上の影響を与える監督指針の一部改正案が発表されている。損保協会では近く監督指針を受けて便宜供与などにつきガイドラインを発表する。併せて6月12日には「代理店業務品質評議会」を設置した。有識者会議報告書を受け、損保会社による代理店に対する指導等を補完するため、代理店業務品質評価を行う業界共通の枠組みとして、代理店の業務品質を中立的な第三者が公正かつ適正に評価する仕組みである「代理店業務品質評価制度」を運営する第三者機関だ。2026年度からの本格運用に向けて、トライアル期間中に、動画やリーフレットで制度の周知を図るとともに、具体的な実務要領等を整備していくことになる。

◇成立した保険業法一部改正

 今回の保険業法改正の主なポイントは保険金不正請求や保険料カルテル問題を受け、それが顧客軽視と大規模代理店への過度の便宜供与などの歪んだ競争という業界慣行から脱却し、顧客本位と公正競争の観点からの保険会社と代理店の関係などの抜本的見直しが図られたものだった。その点、保険募集制度全般の見直しが行われた2016年の保険業法改正とは大きな違いもみられる。

 大規模乗合代理店・兼業代理店、企業内代理店を主たるターゲットとし、保険会社とこれら大規模店の関係の適正化を求める点に主眼が置かれているのが特徴で、その意味で中小の専業プロ代理店が直接の対象となっているわけではないが、代理店の実務能力向上や自立性、態勢整備の如何、顧客情報の管理、顧客本位の徹底、業務品質基準の導入や顧客の最善利益義務、比較推奨での代理店判断ではなく顧客意向に沿った商品説明(施行規則改正・ハ方式の廃止によりロ方式へ)なども求められるなど、代理店規制の強化の一環で、実務上にかなりの影響が出て来るものと思われる。

 金融庁は5月12日に「保険会社向けの総合的な監督指針」の一部改正(案)をホームページに公表し、6月13日締め切りでパブコメを募集した。

https://www.fsa.go.jp/news/r6/hoken/20250512/20250512.html

 整理しやすい項目が先行して公表されたものというのが大方の受け止め方だが、今後、監督指針のパブリックコメントや、今回の保険業法改正の成立をフォローしての内閣府令(施行規則)、監督指針などが順次公表されるものと思われる。監督指針は保険業務に関する実務指針的な位置付けであり、今後の募集業務、代理店実務に影響が出ることが予想されるだけに、その動向を注視していく必要がある。

 今回の監督指針の一部改正(案)における代理店関連の主な論点は以下の通り(株式保有の解消、顧客等に関する情報管理態勢は今回は省略)となっているが、保険募集の適正化、顧客保護の強化、保険市場の公正な競争の確保を目的としており、保険会社に対して、より高度な内部管理態勢の構築と適切な業務運営を求めるものとなっているのが特徴だ。

<損保会社による保険代理店に対する指導等の実効性確保>

 「保険募集管理態勢」については、「損害保険会社による保険代理店に対する指導等の実効性確保」に関する記述が追加され、より具体的な指導方法や検証態勢の整備が求められるようになり、保険会社による代理店管理の実効性重視への転換が図られた。代理店規模に関係なく是正要求を徹底させている点に留意したい。

 保険代理店に対する監査について、代理店による自己点検に依存することなく、監査の周期、監査対象の選定、監査手法(無予告での訪問監査の実施態勢整備)など、具体的な内容が追記され、監査の実効性を高めるための詳細な規定が設けられた。金融庁や財務局によるモニタリングの在り方も一部代理店へのヒアリングと苦情分析方式から、保険会社の代理店への指導状況など立入検査による検証含めモニタリング対象の変更も示された。

<乗合代理店への体制整備義務、注記で「専属の維持の見返り」も対象>

 新設された「保険募集人の体制整備義務」については、複数の所属保険会社等を有する保険募集人(乗合代理店)に対する体制整備について、顧客の適切な商品選択の機会を阻害するおそれがある過度の便宜供与の防止に関する規定が新設された。

 保険募集人が保険会社等に対して過度の便宜供与を求めることの禁止や、比較推奨販売を行う場合の措置などが詳細に定められ、保険募集における公平性の確保が図られた。保険代理店の経営陣の役割も明記された。損保のみならず生保代理店も対象となる。

 また、専属代理店は本規制の対象外となるかというと、「専属の維持の見返り」として、保険会社等に対し過度の便宜供与を求めること及び保険会社等から過度の便宜供与を受け入れることのないよう適切な措置を講じる必要がある」とし規制の対象となる場合があることが注記されていることに留意する必要がある。

<保険代理店等に対する過度の便宜供与の防止>

 新設された「保険代理店等に対する便宜供与」については、保険会社による「保険代理店等に対する過度の便宜供与の防止」に関する規定が新設され、便宜供与の判断基準や具体的な防止措置等が詳細に定められた。対象は代理店のみならず親会社や主要取引先まで拡大している。

 過度の便宜供与の判断基準として、自社の保険商品の優先的な取扱いを誘引する便宜供与や、実質的に自社の保険商品の優先的な取扱いを誘引するものが挙げられ、具体的な事例も示されている。

 保険会社には、過度の便宜供与を防止するための態勢整備が求められ、社内規則等の策定、営業部門等に対する教育・管理・指導の実施、内部監査の実施など代理店に対する支援施策の決定に関しコンプライアンス部門の関与が義務付けられている。

<保険代理店への不適切な出向の防止>

 新設された「保険代理店に対する出向」については、 保険会社による「保険代理店への不適切な出向の防止」に関する規定が新設され、出向の適切性を判断・検証するための態勢整備や留意事項が詳細に定められた。

 出向の適切性に関する判断基準として、顧客の適切な商品選択の機会を阻害するものではないか、顧客情報等の不適切な共有が行われないか、出向先保険代理店の自立を阻害するものではないか、保険会社における利益相反管理の観点から不適切なものではないか、などの点が挙げられている。

 損保協会の「出向者派遣に係るガイドライン」と合わせ検討する必要がある。

 保険会社の役職員が自社に在籍したまま保険代理店における保険募集に関する業務等を代行する場合も同様適切性の検討が求められると注記している。

 なお、規制対象となる出向の定義から、保険会社のグループ企業内の代理店への出向と転籍を前提とした代理店への出向は外れている。

 不適切な出向の防止規定は損保に限定されず生保にも適用がある。

<代理店手数料の算出方法適正化>

 代理店手数料という民民(保険会社と代理店)間の協議事項について初めて指針で言及した点に留意する必要がある。

 新設された「代理店手数料の算出方法(の適正化)」については、損保会社に、代理店手数料の算出方法について、保険募集に関する業務の健全かつ適切な運営を阻害する不適切なインセンティブを与え、不適切な保険募集を誘引することがないようにするための留意事項を示すと共に、これらの潜脱防止やコンプライアンス上疑義ある事案(苦情・不祥事件届け出等)の発生状況等を考慮することを求めていることが特に注目される点だ。

 留意事項としては、1)損保会社による評価項目として「規模・増収率」に偏ることなく「業務品質」を重視すること、2)業務品質評価の具体的な指標について顧客にとってのサービス向上や法令等遵守に資するものとすること、3)乗合代理店におけるシェアの拡大・維持や代理店の新設や乗合の承諾を得るなどの営業上の目的で、他の損保会社の代理店手数料の割増引率に追随するなどの例外的な運用を行っていないか、4)業務品質評価割合の考え方を開示しているか、などが求められている。

<顧客等に関する情報管理態勢>

 「顧客等に関する情報管理態勢」については、顧客等に関する情報管理態勢について、経営陣による情報管理の適切性確保の必要性の認識、具体的な取扱基準の設定、情報管理システムの堅牢化など、より詳細な管理態勢の構築が求められるように改められた。

 特に、顧客等に関する情報へのアクセス管理の徹底や、内部関係者による顧客等に関する情報の持ち出しの防止、外部からの不正アクセス防御など、情報管理システムの堅牢化に関する対策が強調されている。

 なかでも、「顧客等に関する情報へのアクセス及びその利用は業務遂行上の必要性のある役職員に限定されるべきという原則」(Need to Knowの原則)における「業務遂行上の必要性」をどのように解釈するかが今後注目されるところだ。

<保険仲立人と顧客との関係>

 「保険仲立人関係」については、「保険仲立人と顧客との関係」とりわけ手数料や報酬の受け取り方が整理された。

 今回の改正で、保険契約の締結の媒介に関する手数料について(従来の保険会社以外に)顧客にも請求できるとしたが、当面の間、企業分野の保険契約に限定される。また顧客・保険会社双方への開示義務を強化した。

 また保険仲立人が保険会社と資本関係や人的関係がある場合に、顧客と利益相反関係に立つためその関係性を顧客に明示することが求められた。

(中)

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