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め・て・みみ ~ 金融庁、生損保の代理店を通じた契約者情報漏洩に厳正対処
2024年09月10日
金融庁は7月22日付で東京海上日動、三井住友海上、損保ジャパン、あいおいニッセイ同和の損保大手4社に自動車保険加入者の氏名や契約内容が競合他社間で漏洩するなど損保大型乗合代理店で起きた契約者情報の漏洩問題を巡り、保険業法と個人情報保護法に基づく報告徴求命令を出していたが、期限の8月30日に損保大手4社が金融庁に提出した報告書によると、保険代理店に出向していた社員が出向元の損保に漏えいしたり、自動車保険を取り扱うディーラー代理店等からの漏えいした顧客情報が合計で250万件超に上ることが分かった。内訳は、損保ジャパン99万件、東京海上日動96万件、三井住友海上33万件、あいおいニッセイ同和21万件となっている。 金融庁は顧客情報のずさんな取り扱いが業界で横行していた原因を調べ、処分の必要性について検討するとしている。 金融庁が4月に公表したデータ(2023年3月末)では、損保大手4社の出向者は約2370人で出向先は累計で1520社。保険代理店が75%(うち自動車関連が36%)を占める。 今回の顧客情報の漏洩については、1)代理店に出向していた保険会社の出向者経由で漏洩した情報は損保大手4社で24万件に上った。(関係代理店数は119) 出向先の代理店から得た契約者の情報は、競合他社の動向把握や他社の保険契約を自社に乗り換えさせたりするために使われていた。 また、2)自動車保険の提案や販売を担うディーラー代理店でも情報流出が続き、4社の顧客情報が乗合代理店を通じて競合他社に漏れて、それを各社が事実上共有・黙認していたことで、その漏洩は226万件(関係代理店数1199)にものぼった。漏洩の手口は、ディーラーの担当者が電子メールで契約者の証券番号や満期日といった情報を保険会社の社員へ一斉に送って共有していた。 今回の金融庁の報告徴求命令は、契約者情報漏洩の有無を主とする報告内容だったが、機密情報、すなわち各種商品改定の素案や、補償条件などを定めた引受基準の規定集といった他社の内部情報の取得行為支持者の商品戦略や営業活動に一部利用していたとされる件については、各社とも報告書で明確には触れていないが、こうした組織性、悪質性の高い行為は不正競争防止法違反ともなるため、金融庁としては、改めて報告徴求命令を出すかどうかの判断も注目される。 情報漏洩問題を契機に保険会社側の弊害防止に向けたアクションも始まっている。東京海上日動では、複数の保険商品を扱う乗合代理店への出向廃止を検討する。代理店へ出向した社員が出向元の保険会社に契約者の情報を流していた問題を受け、人事制度を見直し、出向者を派遣できる企業を明確にするほか、出向目的を踏まえた目標設定や出向先の評価を重視するなど人事評価の方法も変える方針だ。損保ジャパンも乗合代理店への出向につき抑制の方針。今後他の大手損保でも出向の見直しで、同様の動きが出てこよう。 鈴木俊一金融相は9月3日の閣議後記者会見で、損害保険大手4社が競合他社の契約者情報計250万件超を不正に入手していた問題で、同業界ではこれまで不祥事が続いていたこともあり「損害保険代理店における大量の契約者情報の漏洩が発生したことは遺憾である」と述べるとともに、「各社から報告徴求に基づく報告書の提出を受け、今、金融庁において報告書の内容を精査しているところであり、その中で事実関係の詳細などの実態把握に加えて、真因分析や再発防止策の実効性の検証などを進めているところ。したがって、検証等の途中である現時点の段階におきまして、行政処分の有無を含めまして、金融庁として最終的にどのような対応をとるかは、今の段階ではお答えできない。今後については予断を持たずに、検証等により明らかになった内容に応じて、法令等遵守や契約者保護等の観点から厳正に対応していきたい」と強調した。 代理店を舞台にした契約者情報の漏洩問題は生保にも及んでいる。大手損保傘下の生保3社は8月30日、販売代理店での情報漏洩に関する調査結果を発表し、3社合計の漏洩件数は約1万4000件に上った。第一生命ホールディングスも同日、乗合代理店への出向者が競合他社の顧客情報(本来は共有が許されていない顧客の証券番号)3万7000件を傘下の第一生命に漏洩していた、と発表した。 金融庁は、生保各社に出向先の自社社員を通じた情報漏洩が起きた事案がないかを調べ、報告するよう生保協会を通じて、9月6日までに生保各社による初期調査の結果を報告させた。 6日には日本生命が、グループの保険代理店から同業他社の顧客情報を受け取るなどおよそ9万6000人分の情報漏えいが確認されたと発表した。 今回の生保各社からの初期報告を受け、金融庁としては今後、対象を生保業界にも広げ、組織的な関与の有無などを精査する。調査結果によっては、生保各社にも保険業法などに基づく報告徴求命令を出す可能性がある。 生損保とも業界規模で、乗合代理店への出向等を通じた情報漏洩などを前提にした営業活動等、従来の不公正な取引慣行の見直し、個人情報保護の在り方が抜本的かつ厳正に正され、再発防止策など有効な施策展開が求められることになる。 (中) |